「いわきFC」は子どものためのサッカースクールを運営しない。その理由は?

宮城のチームと戦い、復興を誓った (c)IWAKI FC.jpg


サッカースクールでなく、スポーツ教室を開く

いわき市での反応はどうでしょうか。

「『雇用創出になる』『サッカーチームを立ち上げる』と公表し、実行してきました。まだ100%ではありませんが、地元では歓迎されつつあると思います。多い時は、試合に3千人ぐらい来ていただくようになりました。コアなファンは500人、ファンクラブ会員は3500人。35万人のいわき市民に、存在を知られてはいるものの、一歩を踏み出してグラウンドに来て、一番大事な商品であるサッカーの試合を見てもらうのは、これからだと思います」

「市民向けの健康づくりイベントで、ヨガ、ラン、ジムの開放などをしています。僕らの強みは運動のハードとソフトを持っていることなので、サッカーファンでない人にも、活用して提供します」

地域の子どもたちにも、貢献しています。「いわきスポーツアスレチックアカデミー(ISAA)を開設し、幼稚園と小学校低学年向けに、無料でスポーツクラスを開いています。ユース・ジュニアユースチームは持っていますが、小学生以下のサッカースクールはやらないんですよ。ここがポイントで、くわしく話すと3時間ぐらいかかってしまうのですが」

「体育の成績5の子」を育てる

そこには、独自の考え方があります。

「投げる、走る、跳ぶ、鉄棒、でんぐり返しなど昔は遊びを通してやっていたことが、今は遊ぶ場所もなく、なかなかできません。子どもを集めて、運動する喜びや、運動ってこうするんだよと教えて、『体育の成績が5の子』を育てます。浜通りに住む子たちのスポーツテストの結果がぐっと上がったそうで、この活動が寄与していると思うと嬉しいです。参加者の中には、野球やゴルフ、陸上をやっている子もいます。体を動かすと、ごはんもおいしく、よく眠れて集中力もつくから勉強の成績も上がる。そういう好循環をスポーツを通して生み出したい」

毎週、水曜日にこのクラスを開催し、350人もの子どもたちがパークに来ます。2018年からは、選手がノウハウを覚えて、ホームであるいわき湯本温泉地域の幼稚園に出向いています。1年で、のべ6000人が参加しているそうです。

「アメリカなどでは、小さい頃からいろいろなスポーツをすることが大事にされています。サッカーだけやっていても、うまくいかない。このアカデミーで教えている基礎的な身体操作や、言われたことを瞬時にする力は、どんなスポーツでも役立つ。それを身につけてから好きなスポーツを見つけて、本格的にやっても趣味にしてもいい。幼稚園や小学低学年の段階で、あなたはサッカー、あなたは野球と決める必要はないと思います。子どもたちはどの年齢で成長するかわからないので」


ISAA(いわきスポーツアスレチックアカデミー) (c)IWAKI FC.jpg

合宿誘致・医師不足解消も

地元の経済発展のための活動もしています。いわきFCパークは商業施設を持ち、診療所(柔整鍼灸院併設)、英会話教室、飲食店が入っていて、2017年にオープンして以来、年間30万人が訪れます。

「2年前には『スポーツによる人・まちづくり推進協議会』ができました。いわき市長が発起人で、地元の官民70団体が応援してくれます。広いいわき市で、子どもから大人までの健康づくり・地域づくりを柱にし、ホームの湯本温泉に学生の合宿を誘致したりイベントを開いたり。また、クリニックを設け、地元の医師不足の解消に貢献しています。栄養や体作りを考えたメニューを出す選手向けの食堂もオープンしました。地元の食材のPRもかねて風評被害を払拭し、将来は一般の合宿の際に利用できるようにします」

4月、震災後に営業を休止していたナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」(福島県双葉郡)が全面再開。2月には、そこで「福島ユナイテッドFC」と対戦しました。東北リーグ開幕戦では宮城の「コバルト―レ女川」と戦い、復興への思いを発信しています。

連載:元新聞記者のダイバーシティ・レポート
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文=なかのかおり

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