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Forbes JAPAN 編集部 編集長

「豊岡エキシビション2018」のスタッフは揃いの「大交流」Tシャツ姿だ。

劇作家・演出家の平田オリザと劇団「青年団」、野茂英雄主宰の「NOMOベースボールクラブ」、「ホタルノヒカリ」で知られる人気漫画家のひうらさとる……。

これら人や組織に共通するのは、兵庫県豊岡市に移住したことだ。大阪から特急で2時間半。日本海に面した人口8万人に満たない田舎町なのだが、さらにここには一年を通じて世界中の舞台芸術家らが合宿や創作活動のために訪れる。

市役所には妙な名前の「大交流課」なる部署が存在し、市が打ち立てる旗は大胆にも「小さな世界都市」。のどかなこの町で起きる「大交流」の仕掛けを紹介したい。

豊岡市の名前は知らなくても、城崎温泉なら耳にしたことがあるだろう。大正6年、「小説の神様」こと志賀直哉が発表した私小説「城の崎にて」の舞台として知られる。城崎は、2005年に1市5町による合併で豊岡市となった。

近年、城崎は「インスタ映えの町」と呼ばれる。春休みなどのシーズンになると、浴衣に下駄履きの女子大生たちが路地にあふれ、外湯巡りをしながら写真を撮る。柳がしだれる路地、石畳にカランコロンと響く下駄の音、小さな旅館が並ぶ昔ながらの街並み。その風情に魅了されるが、他の地方都市と同じく、この町も人口減少や高齢化の厳しい波にさらされている。

しかし、昔から独自の仕掛けで見せてきた温泉街でもある。

「インスタ映え」と言われるように風情があるのは、「内湯の浴槽制限」という条例に関係する。城崎では温泉資源を保護するため、旅館の収容人員に対して浴槽の大きさが制限されている。一見、逆境に見えるが、これが「外湯めぐり」の楽しさにつながる。

街に7カ所ある共同温泉の「外湯」を楽しんでもらおうと、旅館の外に出て風呂に入ることが奨励される。さらに、食事をするのも土産を買うのも旅館の外。通りの両脇に小さな旅館、食堂、土産屋、射的屋のような遊び場が並ぶ。だから、縁日のような賑わいを見せていて、町全体が大きな旅館のように一体化しているのだ。これが城崎温泉が昔から打ち立てる「共存共栄」という戦略である。

共存共栄という仕掛けは、昔の日本の温泉文化に合致するものだった。

日本の温泉は「湯治」という目的があり、長期療養が主流であった。長期滞在するにはお金がかかる。そのため、温泉旅館は自炊できるようになっていて、「町ごと旅館」の方が、湯治の客には便利だった。小説「城の崎にて」も、東京の山手線で怪我をした志賀直哉が、湯治で城崎温泉に逗留する話である。

文=藤吉雅春

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