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2019.05.25

世界が注目する「インスタ映え温泉」が仕掛ける逆転のアイデア集

「豊岡エキシビション2018」のスタッフは揃いの「大交流」Tシャツ姿だ。



子供が楽しめる音楽ワークショップなども開かれている。

「大交流課」の名付け親は市長

ところが、戦後、日本の温泉文化は変貌する。高度経済成長によって、社員旅行などの団体客が、一泊二日の短期で宿泊するのが主流になるのだ。おなじみの飲めや歌えのどんちゃん騒ぎである。

客室が10から30室の小さな旅館が大半の城崎温泉に、兵庫県立大会議館なる大型施設が完成したのが、1983年である。1000人収容の多目的ホール、会議室、60人収容の宿泊施設、食堂を備えるものだ。城崎のコンベンション・シティ化を狙ったものであった。

しかし、大型施設が共存共栄文化の町と有機的につながるのは難しく、赤字に陥っていく。2012年、ついに閉館となった。

豊岡市に「大交流課」が設置されたのは、翌2013年。大交流課の女性職員に、「大交流課という、ふざけた名前は誰がつけたんですか」と聞くと、彼女は「市長です」と言う。

「市長(中貝宗治氏)が2010年頃から『人口減少の時代に、交流人口を増やす必要があるね』と言うようになり、13年に課として誕生しました」

当時はまだ「交流人口」という言葉は知られていなかったから、取り組みとしては早い方だろう。その最大の仕掛けが、閉鎖された大会議館をリノベーションして設立した「城崎国際アートセンター」である。世界初の舞台芸術家のための「アーティスト・イン・レジデンス」を始めると打って出たのだ。

この取り組みがユニークなのは、応募から選ばれたアーティストや団体が無料で滞在・活動できることだ。最短3日間から最長3カ月の間、宿泊費もスタジオ使用料もタダ。その代わり、創作活動やリハーサルを市民は無料で見ることができるほか、アーティストは市内38の小中学校に出向き、授業を行ったり、市民とワークショップを行う。つまり、芸術家に芸術で還元させるのだ。

市内の幼稚園から高校まで、演劇的手法を用いたコミュニケーション教育が実施されるようになった。初年度から城崎国際アートセンターの芸術監督に就任したのが、冒頭で紹介した平田オリザである。

世界中のパフォーミング・アーツの関係者に口コミで広がり、現在に至るまでフル稼働状態である。昨年度の公募は20カ国68のカンパニーから応募があったという。世界中のパフォーミングアートが見られるのだから、東京や関西からも人がやって来る。

赤字を生み出していた大会議館は、こうして世界との交流拠点に生まれ変わったのだ。
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文=藤吉雅春

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