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国際モータージャーナリスト「ライオンのひと吠え」

テスラのイーロン・マスクCEO(Getty Images)

テスラのイーロン・マスクCEOには自社ブランドのオーナーたちと投資家を怒らせる傾向がある。市場もメディアも、彼の妙な行動を不思議がっている。と言うのは、生産がかなり遅れているモデル3の製造問題を解決して、昨年約束した36万台以上の生産台数を実現することは彼の使命なのに、なぜか、本人は全く別のリスキーな事業に没頭しているようだ。

もっと言えば、低価格なエントリーレベルのモデル3の成功こそが彼の一番の課題になっているはずなのに、同氏は自動運転やロボタクシーに時間を費やしている。マスクの行動にがっかりした市場や投資家が先週、テスラの株を手放したため、株価が7.5%暴落し、2016年12月以来の低価格になった。

「テスラの生き残りにはモデル3の成功が不可欠」だとウェドブッシュ証券のダン・アイブス氏は言う。その通りだと思う。

テスラは高級な電気自動車を出すようになった8年前から、1000万円以上するモデルSやモデルXを売ってきたが、モデル3が5万ドル(550万円)を切ったことで、ついに一般人にアピールすることができたわけだ。でも、マスクはなぜか、モデル3の成功を約束する作業に専念せず、ロボタクシーなどの事業に挑戦している。



2030年にならないと完全な自動運転車は不可能だと多くの専門家は言っているにも関わらず、一匹狼のマスクは「来年末までに『ロボタクシー』、つまり自動運転タクシーは100万台ほどできる」と投資家に宣伝している。

さて、同氏が言っている「ロボタクシー事業」とはどんなものなのか。

彼は、テスラの車両のオーナーたちに「自分のテスラ車をタクシーとして貸してもらう」というロボタクシーの事業が来年末までに成立するだろうと言っている。また、近い将来、その事業がテスラを5000億ドルの会社にすると言い張っている。でも、正直なところ、自分のテスラをウーバーにしてもタクシーにしても、「カー・シェアリング」として使わせられるオーナーがどれだけいるかは疑問だ。

それに一つの大きな問題が残っている。それは、世界のどの国の政府もまだ、完全な自動運転を許可していないと言うことだ。つまり、ハンドルから手を離してクルマに運転を任せる作業はまだ認められていない。例えば、工場や倉庫の敷地内やオリンピックの選手村のような限られた環境なら可能だとも思うけれど、一般道で他者のクルマを「ウーバー」風に借りて、ビジネスが成立することは無理に近いだろう。

マスクが夢見る、来年末までに100万台ほどのロボタクシーができるという世界に対し、アーク投資のタシャ・キーナー氏は、「2020年12月31日に、完全な自動運転のテスラ車は1台も存在しないだろう」という。

テスラがそんな自動運転の世界を作るには、成り立たせるべき多くの工程がある。例えば、投資銀行カウエン社のジェフリー・オズボーン氏が指摘するように、GMより優れた製造工程を実現し、エンビディア社より優れたハードウエアを作り、グーグル社より優れたソフトウェアを作る必要がある。さらには、ウーバー社よりも優れたタクシーサービスを成立させなくてはならない。

つまり、マスクが言っているのは、ほとんど無理だということだね。でも、来年の12月まで待ってみよう。

国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
「ライオンのひと吠え」 過去記事はこちら>>

文=ピーター・ライオン

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