「夢中になっていたら性別なんて意識しない」女性建築家のパイオニアが世界で活躍するまで

建築家 森俊子

「私は、帰国しなかった帰国子女なんですよ」。建築家の森俊子に、海外を拠点に活動を始めたきっかけを聞くと、笑ってそう答えた。

森は、ニューヨーク、ロンドン、東京を行き来しながら育った後、現在はニューヨークで「Toshiko Mori Architect PLLC 建築事務所」を主宰。ハーバードGSD大学院教授も務めるなど、未来の建築家育成にも情熱を注いでいる。40年以上第一線で活躍し続ける彼女に、エネルギーの源を聞いた。

──森さんはいつ、建築の道に進むことを決めたのでしょうか?

高校生の夏です。ルネサンスの都、イタリアのフィレンツェに3カ月間滞在し、現地の大学の講習を受けたことがきっかけで、建築が好きになりました。


建築や科学・哲学・文学に音楽、あらゆるジャンルがかかわりあって、総合文化として栄えていったその土地の歴史に共鳴を覚えたんです。本当の文明というのは、様々な要素が一体になって生まれるものだと感じた瞬間、文明に貢献できるような仕事がしたいと思いました。

中でも、なぜ建築の道に進んだのか。いろんな積み重ねがあって理由はひとつではないのですが、フィレンツェでドローイングを教えていただいた先生に「建築が向いているんじゃない?」と言われたんです。

街を歩いて実際に自分の目で見た建築をデッサンする中で、私の作品を見てそう言ってくださった。先生のコメントが後押しになりました。

大学を卒業した後には、日本に戻ることも考えていたのですが、建築家の先生に進路を相談したところ、「あなたは女性でしょう」と前置きをされた上で、「今建築をやりたいなら、ニューヨークに行った方がいい」とはっきり言われたんです。それ以来、日本に戻ることなく、帰国しない帰国子女になったというわけです(笑)。
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構成=伊勢真穂 イラスト=Luke Waller

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