中国が対米貿易戦争で「元安」を武器にする可能性

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ドナルド・トランプ米大統領が中国製品に対する関税をさらに引き上げたことで、中国政府は再び、「通貨」という兵器を配備する準備を整えた可能性がある。

1米ドルは5月22日に一時6.9342元となり、元安はさらに進行。年初来の下落率は、約8.77%となった。

米国は10日、中国からの輸入品2000億ドル(約22兆円)相当に対する関税率を10%から25%に引き上げた。だが、元安が進めば、中国の輸出業者が受ける影響の大半は帳消しになる。

人民元相場が心理的な節目である1ドル=7.0元に近づく中で注視されるのは、中国当局がそれを容認しているのかどうかという点だ。元安は同国の輸出業者を助けることになる。だが一方では、資産価値を安定させたい企業が中国から資金を引き揚げ始め、資本流出が進むことになる可能性がある。

ロイター通信は中国人民銀行(中央銀行)の関係者3人からの情報として先ごろ、中銀が1ドル=7元以上の元安を認めことはないだろうと報じた。関係者の1人は、「7元を超える元安は、…人民元に対する信頼感を損なわせることになり、資金の流出につながるだろう」と述べている。

「元安は進む」との見方も

一方、最近中国を訪れたというドイツ銀行のアナリストは、資金流出の懸念は薄まっているとの見解を示す。政府関係者は今後、元安がさらに進むことに賛同するようになるとの見方だ。

「通貨安の“外部性”、つまりホットマネーの流出と企業が受けるストレスへの懸念は、今回はより限定的なものになると考えられる」

「規制当局は、長年にわたり実施してきた規制措置が、ホットマネーの流出を管理可能なものにすると確信しているもようだ。企業は以前に比べ、(通貨の)弱さへの備えを強化しており、工業部門の企業の利益は増加している。(人民元の)一層の弱さが企業のバランスシートに影響する懸念は薄まっている」

このアナリストによれば、(これまで米国の関税の引き上げに伴って予想どおりに元安が進んできたことからみて)2000億ドル相当の中国製品への関税率が25%に引き上げられたことで、為替レートはおよそ1ドル=7.10元になると推測される。トランプがさらに3250億ドル相当の中国製品に追加関税を課せば、1ドル=7.40元になると予想されるという。

また、オランダのラボバンク銀行は同様に、貿易戦争がさらに激化するなら、中国の中銀は外貨準備を減らすか、金利を上げる、またはその両方を実施することができると指摘する。だが、それは中国の国内経済に深刻な影響をもたらす可能性がある。

ラボバンクは、中国が米国に対してより攻撃的になっていることから考えれば、「7元を超える(元安になる)可能性は高い」とみている。

中国の習近平国家主席は21日、国共内戦で国民党軍に包囲された紅軍(共産党軍)が1934~36年にかけて行った大移動の起点となった江西省の長征出発地記念園を訪問。次のように述べた。

「われわれは今、新たな“長征”に出発しようとしている。もう一度最初からやり直す必要がある」

この発言もまた、中国が貿易戦争の長期化に備えていることの表れだ。

編集=木内涼子

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