米富豪の学生ローン肩代わりを批判 NYタイムズの的外れな主張

ロバート・スミス(Photo by Marcus Ingram/Getty Images)

米国の億万長者ロバート・スミスが、ジョージア州アトランタにあるモアハウス大学の今年の卒業生全員が抱える学生ローンを肩代わりすると宣言したことを受け、米紙ニューヨーク・タイムズは今週の社説で、スミスの行為を称賛する見方を嘆いた。

同紙は、スミスから卒業生への推定約4000万ドル(約44億円)の寄付は「寛大な行為」だと認めつつ、実業家のアンドリュー・カーネギーが米国全土に図書館を立てるため数百万ドルを寄付したのと同様、スミスの慈善行為は自身が利益を得てきた税制上の欠陥を隠すものだと批判した。

ニューヨーク・タイムズ紙いわく、「公共政策の代替としての慈善活動」は、米国には医療や教育、インフラなどへの重要投資に必要な資金がないことや、度重なる減税のせいで政府の歳入が着実に減少していることを露呈している。スミスの場合、未公開株式投資会社の利益を投資収益として扱い、勤労所得より大幅に低い税率を適用するキャリードインタレスト(成功報酬)規定がそもそもの元凶だと、同紙は指摘している。

税制上の欠陥により重要な政府支出をまかなうのに十分な歳入が生み出せていないというニューヨーク・タイムズの指摘は的を射ている。連邦政府や多くの州政府が数十年にわたり減税を繰り返したことで、政府や自治体の財源はほぼ空になってしまった。成長を続ける富裕層を批判する同紙の見解は、富裕層による寄付金がその権力と特権を守るシステムを永続化させることを説得力をもって説いた米作家アナンド・ギリダラダスの考えと合致する。

しかしニューヨーク・タイムズ紙が間違っている点は、スミスの寄付金を批判の材料として使っていることだ。スミスがモアハウス大学の卒業演説で学生ローンの肩代わりを約束しなかったとしよう。その場合、米国の税制がより公平なものになる可能性は高まっただろうか? 学生が抱える借金がなくなる可能性は高まっただろうか? あるいは、キャリードインタレストの抜け穴をふさぐとしつつ守らなかったトランプ大統領の約束が果たされる見込みが高まっただろうか?

また、この抜け穴が実際にふさがれ、政府が今後10年で生まれる推定150億ドル(約1兆7000億円)以上の収入を得たらどうなるだろう? その資金は、大学進学の費用を下げるために使われるだろうか? その資金は、教育の公平さや質を改善する連邦ペル給付奨学金などへの投資に使われるだろうか? それとも米南部での国境の壁建設や、7月4日の独立記念日の祝賀会をより盛大にするために使われるのだろうか?
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編集=遠藤宗生

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