Oファンドというこの新たな金融商品は、投資家に3つの減税措置を提供する。流れを説明しよう。
まず、資産を売却した投資家は、そこから得たキャピタルゲインを、180日以内にOファンドに投資する。これにより投資家は、(1)キャピタルゲインにかかる税の支払いを26年末まで繰り延べることができ、(2)かつその課税額は10〜15%減額される(投資保有期間が5年なら10%、7年なら15%となる。つまり15%の減額を受けるには、26年末までに7年間保有する必要があるので、19年末までに投資を完了しなければならない)。(3)そして、Oファンドに資産を10年以上保有し続けた場合、そのキャピタルゲインは非課税となる(10年以内に売却しても、別のOファンドに投資すれば非課税を維持できる)。
これまでにも、節税をインセンティブとして社会的投資を促進する制度は存在した。ただ、「エンタープライズ・ゾーン」や「新市場税額控除」といったそれらの制度は、税制優遇額に上限が設けられていたり、投資できる産業や地域に制約があった。対して、Oゾーン法は対象範囲が広く、規模の拡大も可能だ。ただし、 “不道徳産業”(酒屋やカジノ、風俗店)は投資対象から除外される。また、ベンチャー投資会社や未公開株式投資会社、銀行は、Oゾーンに拠点を置くだけでは非課税にならない。
投資家にとっても、この制度にはほぼ制約がないといえる。投資額にも節税額にも上限がない。キャピタルゲインにかかる税は基本的に州税と地方政府税からなるが、ほとんどの州では回避できる税金の種類に制約がない。また、10年を超えてOゾーン投資を非課税で運用し続けられる期間にも制限がないのだ。
すべてがうまくいけば、米国の個人や企業の バランスシートに鎮座する推定総額6兆1000億円の含み益の多くが市場に拠出され、経済発展から取り残された地域を救うことができる。しかし失敗すれば、米国史上でも有数の規模の“単なる減税”が行われたことになる。それも、地域の深刻なジェントリフィケーション*を招く減税だ。(*再開発などが中間層・富裕層の流入や地価の高騰を招き、貧困地域が中間層化・高級化すること。結果として地元住民が追い出されることが多い)