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2019.05.28

全米の「貧困と犯罪の町」を蘇らせよ 革命的な法律成立の舞台裏に迫る

左から「ゾーンレンジャー」のティモシー・スコット上院議員と起業家のショーン・パーカー


全米の「貧困と犯罪の町」に「新しい再分配」は福音をもたらすか

Oゾーン同士に熾烈な競争が起こるのは確実だ。8700の地区のうち、経済再建に必要な規模の投資を呼び込めるのは、ほんの一握りになるだろう。「“ハーディング”(集団に同調・追随する心理)が働いて、ある地域の勢いが増せば増すほど、そこにより多くの投資家が集まることになると思う」とパーカーは言う。

Oゾーンに大金をもたらし得る資金源は数多く存在する。不動産開発業者やPEファンド、ベンチャーキャピタル、投資銀行、個人の資産家、資産家一族の資産を管理・運用するファミリーオフィス、オープンエンド型の投資信託会社……。そして、大金の投資先も多様だ。地方のOゾーンなら、農業やエネルギー、鉱業やデータセンター、研究施設など、広大な用地が必要な事業プロジェクトを受け入れられる。都市部のOゾーンは、不動産開発業者やスタートアップ、ベンチャーファンドを引き寄せられる。

不動産開発業者にとっては、Oゾーンが成功すれば、安価な不動産と、期間無制限かつ非課税の利益が享受できる。Oゾーン法では、不動産投資においては30カ月以内に購入価格と同額をリフォームや増築などに投じることが定められているため、地域には継続的な発展が見込める。新しいオフィスビルや工業地域、レストランや手ごろな価格の住宅が生まれれば、そのすべてが経済発展の下地となる。

ベンチャーキャピタルにとって、Oゾーンのスタートアップは途方もない利益をもたらし得る。将来起こり得る莫大な利益を非課税で享受できるからだ。ベンチャーキャピタルや投資銀行、PE投資会社が先を争って自前のOファンドを設立し、インキュベータを立ち上げたり、中小都市で見過ごされている人材を探し回ったり、あるいは自分たちの投資先企業をOゾーンに移転させたりすることも見込まれる。そしてなにより、地域に本格的な雇用を生み出すのはこれらのスタートアップなのだ。

ただ、Oゾーンができる先には、それを都合よく利用しようとする人々(オポチュニスト)がついてくる。

Oゾーン法が提供する大きな節税インセンティブは、この制度が社会にもたらす利益よりも、その税制優遇に興味がある人々を多く呼び寄せるだろう。何十億ドルもの営利目的の資本が貧困コミュニティに流れ込むのだ。悪用されたり、抜け道を提供することになったり、意図せぬ影響を及ぼしたりする余地もまた大きい。事実、フォーブスが取材した関係者のほぼ全員が、ジェントリフィケーションは現実的なリスクであると口を揃えている。

「もちろん、あらゆるシナリオが想定できる」とスコット上院議員は言う。

「だが私には、何もしないでいることのリスクを裏付ける50年分の証拠がある」

文=スティーブン・ベルトーニ 写真=エヴァン・カフカ 翻訳=木村理恵 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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