持てる者に依存して生きるしかない、階層社会の生んだ深い諦観

左からアンドレイ・ズギャビンツェフ監督、エレナ・リャドワ、ナデシュダ・マキナ、アレクサンデル・ロジニャンスキープロデューサー(Francois Durand/by Getty Images)

シニア世代の再婚が増えているという。厚生労働省の人口動態統計では、2000年頃から50才以上の男女の結婚が増加、2012年には年間約4万組のシニアが婚姻届を提出している。

芸能人、著名人の熟年結婚というと、加藤茶や石田純一のように、男性が50~60代で女性はかなり年下というケースが多かったが、最近は桃井かおり、阿川佐和子、浅野ゆう子など、男女ともにシニアのケースも散見される。

ただ我々から見ると、「シニアでも若々しく綺麗で、それなりの社会的、経済的地位を獲得している女性だからですよね」という印象がある。

「シニアの婚活」のもっとも世俗的で身もふたもないイメージは、妻に先立たれて身の回りの世話、ゆくゆくは介護をしてくれる女性を探す男性と、夫に先立たれて生活不安から資産家との出会いを求める女性という構図だ。後者については「後妻業」などという言葉もあり、映画やドラマで面白おかしく描かれている。

高齢独身女性の貧困や、高齢独身男性の孤独死のニュースをよく耳にする現在、既婚・独身を問わず、老後と聞いて「いかに貧困と孤独を回避するか」を考えざるを得ないのが現実だ。しかし、そういう”守り”を万全にしたシニア婚で、必ずしも幸せになるとは限らないのは、すべての結婚と同様だろう。

今回取り上げるのは、裕福な男性と再婚した中年女性の「その後」を描いたロシアの作品『エレナの惑い』(アンドレイ・ズギャビンツェフ監督、2011)。

二人の間に"和やかな空気"はない

冒頭は早朝の風景。野鳥が羽を休める灌木越しに、高級マンションの広いベランダが固定カメラでしばし映し出される。次いで静まり返った広い室内。重厚な建材のドアに大きな窓に囲まれたリビング、ブルーグレーを基調とした落ち着いたインテリアには無駄がない分、愛想もない。

目覚ましが鳴り、やや大儀そうにベッドから起き上がる初老にさしかかった女性、エレナ。主婦の一日の始まりが淡々と描かれるが、どこか冷え冷えとした雰囲気が漂っている。

かなり年上と思われる夫ウラジミルは、鷹のような目を持つかくしゃくとした老人。だが朝食のテーブルについた二人の間に、和やかな空気はない。エレナはまるでメイドのように彼の世話をしており、家計を厳しく監視されている。

ドラマの進行につれ、ウラジミルは昔、病気で入院中にナースだったエレナと出会い、それぞれ子持ちで遅い再婚をしたとわかる。エレナの息子セルゲイへの経済援助をめぐって、エレナは金に細かいウラジミルとの間に確執を抱えている。
次ページ > ロシア社会の貧富の差とは

文=大野 左紀子

ForbesBrandVoice

人気記事