ピロリ菌検査で中学生に抗生剤を処方する是非を考える

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「日本から胃がんがなくなるのも夢ではありません」

横須賀市でマールクリニックを経営する水野靖大医師は言う。

水野医師は1997年に京都大学を卒業した外科医。東京大学医科学研究所勤務を経て、2012年にマールクリニックを開業した。消化器疾患の内視鏡診断・治療が専門だ。

横須賀市では、市役所と地元医師会が中心となって中学生を対象に胃がん検診を準備している。中心になってリードするのは水野医師だ。本稿では、彼らの活動をご紹介したい。

言うまでもないが胃がんは国民病だ。国立がん研究センターの『がん統計』によれば、2017年度、我が国で37万3334人ががんで亡くなった(※1)。このうち、4万5226人(12%)が胃がんだ。肺がん、大腸がんについで3番目に多い。

胃がんを発症した患者数は更に多い。同年度に胃がんと診断されたのは12万6149人。大腸がんについで第2位だ。

肺がんと比べ、胃がんの患者数は多いが死亡数は少ないことになる。これは早期に診断されれば治癒するからだ。国立がん研究センター中央病院胃外科によれば(※2)、2000~07年に4275人を手術したが、早期であるステージ1Aの患者の疾患特異的5年生存率(胃がん以外の理由で亡くなった人の影響を除外する)は99.4%だった。

もちろん、進行すれば予後は不良となる。他臓器に転移したステージ4の疾患特異的5年生存率は12.4%に過ぎなかった。

胃がん対策は早期診断にかかっている。この点でがん検診は重要だ。

我が国は世界に冠たる胃がん検診先進国だ。バリウム検査は、1950年代に千葉大学の市川平三郎医師(後の国立がんセンター病院長)らによって開発され、東北大学の黒川利雄教授(後の東北大総長、癌研究会附属病院長)によって胃がん検診に応用された。

このあたり、柳田邦男氏が1979年に発表した『ガン回廊の朝』に詳しい。同書は、この年から始まった講談社ノンフィクション賞の第一回の受賞作に選ばれている。

我が国は官民を挙げて胃がん検診を推進している。

民の代表が日本対がん協会だ。1958年に朝日新聞が創立80年周年記念事業として設立し、理事長には社長経験者など大物OBが名を連ねる。日本対がん協会が目標として掲げるのは、がん検診の普及だ。これは胃がん検診から始まった。

官の役割は財政支援だ。1966年には胃がん検診の国庫補助、1983年には老人保健法により市町村が実施主体となることが法制化された。現在、全国に「…県対がん協会」や「…県健康づくり財団」のような組織が立ち上がり、検診の実務を担っている。

ところが、これだけがん検診に力をいれても、その受診率は高くない。日本医師会によれば、40~69歳の受診率は男性45.8%、女性は33.8%にすぎない。
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文=上昌広

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