ピロリ菌検査で中学生に抗生剤を処方する是非を考える

Visoot Uthairam/Getty Images


我が国では抗生剤の濫用が問題となっている。小児科領域では、抗生剤が効かないとされるウイルス性の感染症の約半数に抗生剤が処方されているという報告もある。クラリスロマイシンは、そのような抗生剤の一つだ。ことの是非はともかく、安全性は高いと判断していい。

問題はアモキシシリンだ。通常の1日あたりの使用量は750~1,000ミリグラム。小児の場合、用量の幅は広く、体重1キロあたり20~40ミリグラムを3~4回内服する。最大量は体重1キロあたり90ミリグラムだ。今回の服用量は、その範囲内だが、通常量より多い。それはピロリ菌の除菌には高用量が必要だからだ。厚労省はピロリ菌を除菌する場合に限り、1日1,500ミリグラムの服用を認めている。

成人では除菌の経験は豊富にあり、その安全性は確立されている。一方、小児における知見は不十分だ。

抗生剤は腸内細菌を殺すため、下痢、悪心、食欲不振などを生じやすい。ごくまれであるが、アナフィラキシーや重症の皮膚合併症である皮膚粘膜眼症候群などを生じることもある。

横須賀市の施策に反対する医師は、この点を重視する。「エビデンスがない」と主張する人もいる。私も、彼らの指摘は理解できる。だからこそ、横須賀市に期待したい。

このような医師が言う「エビデンス」は医学論文での発表だ。医学論文で発表されるには、専門家の査読を通過しなければならず、質は保証される。

ただ、今回に関して、「エビデンス」を盾に批判する医師の主張は合理的でないと考える。それは行政の判断に医学的エビデンスは必須ではないからだ。今回のようにエビデンスがない状況で判断しなければならない状況もある。その場合に求められるのは、判断の合理性と情報開示だ。

私は中学2年生に対してピロリ菌検査を行うことは、これまでの医学研究の成果を鑑みて、有用性が高いと考える。その意味で横須賀市の判断は妥当だ。

ただ、その有用性について実証された訳ではない。効用および副作用については不明な点が多い。このような点を明らかにするには、第三者による反証が可能な学術研究として発表されることが望ましい。そのためには、作業仮説を明確にし、被験者の同意を得ることなどが求められる。

横須賀市も、ピロリ菌検査を行うにあたり、住民にメリットとデメリットを説明し、同意を取得する。嫌がる住民に無理矢理検査を受けさせる訳でない。このあたり、「臨床研究」も「行政施策」も変わらない。
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文=上昌広

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