ピロリ菌検査で中学生に抗生剤を処方する是非を考える

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現在、我が国は肺・胃・大腸・乳・子宮頸がんの5つのがんに対して検診を実施していて、胃がん検診の受診率は肺がんに次いで高いが、決して充分なレベルではない。

私は、これは仕方がないと思う。胃がん検診はバリウム検査か内視鏡検査で行うが、いずれも侵襲的だからだ。特にバリウム検診は見落としも多く、死亡事故などの合併症が問題視されている(「バリウム検査「利権」…がん見落とし多く、死亡事故や重い副作用:有用な内視鏡普及の壁」Business Journal2017年9月30日)。
検診の受診率を向上させるには、より安全で診断精度の高い検査法の開発が必要だが、その目途は立っていない。

実は、胃がん検診には、バリウムや内視鏡以外の方法もある。ABC検診だ。

この方法では、ヘリコバクターピロリ(以下、ピロリ)の感染の有無を調べる抗体検査と、慢性胃炎の指標である血液中のペプシノーゲンの量を測定する。ペプシノーゲンは胃粘膜が作り出す酵素で、慢性胃炎により胃粘膜が萎縮すると分泌量が低下し、ペプシノーゲンのサブタイプであるIとIIの比率が変化する。この方法を用いれば、胃がんのハイリスク患者を絞り込むことができ、確定診断に必須の内視鏡検査を受ける人を減らすことができる。

また、余計な被曝を避けることもできる。バリウム検診での被曝の平均は2.9ミリシーベルトで、胸部X線写真の約100倍だ。自治体が勧めるまま、40才から毎年受診すれば、20年間で58ミリシーベルトも被曝してしまう。日本が「世界一の医療被爆国」と批判される由縁だ。

私は、ABC検診は有望だと考える。一部の医師は、この方法を推奨するが、厚労省および我が国のがん医療の司令塔である国立がん研究センターは「エビデンスがない」と否定的だ。本稿で詳述はしないが、このあたり、私は純粋な医学的理由ではなく、様々な利権や思惑が絡んでいると考えている(同上)。

話をABC検診に戻そう。この方法が確立されたのは、医学研究が進み、胃がんの発症には、ほぼすべての患者において、ピロリ菌による慢性胃炎が関与していることが分かったからだ。

ピロリ菌は、幼少期に親からの口移しや井戸水などを介して感染する。そして、慢性胃炎を引き起こす。大部分の胃がんはこの慢性炎症を背景に発症する。広島大学の医師たちが3,161例の胃がんを調べたところ、3140例でピロリ菌の感染を確認した。実に99%だ。

ピロリ菌の感染を放置すると胃がんのリスクがあがる。広島県の呉共済病院の医師たちがピロリ菌感染者1246人をフォローしたところ、10年間で36人(2.9%)が胃がんを発症したという報告も存在する。観察期間を延長すれば、生涯にわたる胃がん発生率は15%程度と言われている。
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文=上昌広

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