━━隣国の中国や韓国の状況はいかがでしょうか。
GIDに関して、中国と韓国の状況は基本的に日本に似ています。強調したいのは、法律がそのまま社会を表しているのではない、ということです。例えばタイはトランスジェンダーの人々に対して非常にオープンで受容度が高い国です。でもタイには性別転換の法律はありません。
ネパールを見てみましょう。ネパールは素晴らしい法律を持っています。2007年、世界で初めて最高裁判所が主導して性別変更のための全ての条件を外しました。しかし、ネパール社会そのものは、あまりトランスジェンダーに対してオープンとは言えません。法律が全てではありませんし、社会の受容の程度とのバランスが重要なのです。また、インドネシアやベトナムも法律自体がありません。
日本は法律で性別転換が定められており、それ自体はいいことですが、いま、改定の時期が来ているのです。
━━民間企業として、行動できることはありますか。
LGBT問題では、民間企業が多くの役割を担っています。たくさんの日本企業、特に金融機関や国際企業がセクシャルマイノリティのイベント「東京レインボープライド」にスポンサーとして参加しました。それは素晴らしいことです。
国際的なブランドの多くは、人権的な視点だけでなく、雇用の観点からもLGBTが重要だと認識しています。先ほどお話しした東京の企業で働くトランスジェンダー男性のように、職場の誰にも言えない大きな秘密を抱えながら働くことはとてつもないストレスです。メンタルヘルスにもよくないですよね。
法律が変われば、人々は「守られている」という感覚が得られると思います。実はあなたの職場にも東京の大企業でも、カミングアウトしていないトランスジェンダーの人々がいるかもしれません。彼らは安心して周囲の人に言うことができません。それを理由にクビになったり、いじめにあうかもしれないからです。法務省が彼らは病気ではないし、普通のことだ、と言うことは、とてもパワフルなメッセージになるでしょう。
日本は先進的な側面もあります。東京都では一部の自治体で同性婚の結婚証明書を出しています。2020年のオリンピック・パラリンピックも重要なタイミングです。オリンピック前に日本が法律を改正すれば、国際社会への強いメッセージになるでしょう。日本が法律を変えることで、周辺の国々にも改正の圧力がかかります。いまが改正のとてもいいタイミングだと思います。
カイル・ナイト◎ヒューマン・ライツ・ウォッチLGBTの権利プログラム調査員。カリフォルニア大学ロサンゼルス校ウィリアムズ・インスティテュートの元フェロー。在ネパールAFP通信社とIRIN(国連の人道報道機関)で東南アジアの報道に従事した後、国連合同エイズ計画(UNAIDS)やthe Astraea Lesbian Foundation for Justiceなどで勤務した。デューク大学で文化人類学を専攻。