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━━インタビューの中で特に記憶に残る話はありましたか。

私がインタビューをした子供たちは知的で頭が良く、将来有望な子ばかり。有名大学や立派な仕事を目指していました。でも、性同一性障害者特例法のために彼らは本当に怯えていました。「そんな手術は受けたくない」「身体を傷つけたくない」「高額な手術費や医療費をどうするのか」。14歳ほどの子供達です。子供が怯えながら成長しないといけない状況にいます。それは、とても心が痛むものでした。

もう一つは、報告書の中に書いた、トランスジェンダーの女性の話です。彼女は、「皆が手術をしているか、していないかにすごくこだわっている。でも、私たちはパンツを脱いで性器を見せながら生活しているわけではない。隣に座っているトランスジェンダーの人が手術を受けたかどうかなんてわからない。なんでそんなこと気にしないといけないの?」と言っていました。

私は世界中で調査していますが、この言葉を本当によく聞きます。ヨーロッパ、アメリカ、インドネシア、アルゼンチン、どこに行っても聞きました。この問題は、究極的には一人ひとりのプライベートな問題です。単に自分の生活をして、仕事を持って、家族を持って、やりたいことをしたいだけです。

都内のテクノロジー関連の大企業に働くトランスジェンダーの男性に会いました。非常に成功している方です。しかし、彼が戸籍上は女性であることを職場の人は誰も知りません。手術は受けていませんが、スーツ姿で、短い髪。男性の名前を使っています。皆、男性だと思っているでしょう。いい人生を歩んでいますが、法律によって、「一人前の市民」として認められていない。ただ、普通の生活をしたいだけなのに、それが許されていない。

手術をすることが悪いわけではありません。問題なのは「同意がなく強制されること」です。手術をしたければ手術ができ、したくなければしなくていい、という環境が望ましいのです。このような断種は、歴史的に多くの国で行われてきたことです。日本では、旧優生保護法の下で障害者に不妊手術をしていたとして、救済法案が成立したばかりです。なぜトランスジェンダーの人々に強制を続けているのでしょうか。

━━報告書を発表して、どのような反応がありましたか。

報告書を発表した後、数人の国会議員や厚生労働省の職員と面会しました。日本のように性別変更に手術を求める法律は、実は国際的に見ても、一般的なものだと言えます。ヨーロッパの多くの国々も似たような法律をほとんどの国が持っています。しかし同時に、そのような法律を持つ国々の多くが法改訂を検討しています。このような法律の多くは15年ほど前にできたもので、(性同一性障害を精神疾患とみなしていた)当時の知見に基づいています。それから15年で医学的な知見は大きく変化しました。

我々が面会した国会議員や官僚の多くは、日本も法律を変える時期が来ていると同意してくれたと思います。WHOの新しい国際疾病診断基準(ICD)で、性同一性障害は除外されます。それに合わせて、厚労省は対応を始めています。一方で、同法を管轄する法務省の対応は明らかではありません。

法改正すれば、手術を受けたくないと思っているトランスジェンダーの多くが救われるでしょう。一方で、手術要件を外すと『社会に混乱が起きる』との反対意見がありますが、例えばオランダは法律を変えましたが、何も問題ありませんでした。ラテン文化のアルゼンチンや、インドや台湾も変えましたが、問題は起きていません。

文=成相通子

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