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2019年3月20日に開かれた記者会見の様子

日本の人口の8.9%、約11人に1人はLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーなどのセクシャルマイノリティの人々の総称)だと言われる。とても身近な存在だが、日本社会で生活するトランスジェンダーの多くが究極の選択に迫られていることは、あまり知られていないのではないだろうか。

「手術か子どもか。選ぶことの出来ない2つの選択肢。絶望です」。

4月に公開された国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書で、トランスジェンダー女性の悲痛な声が紹介されている。彼女は女性だと自認しているが、戸籍の上では男性のままだ。

日本では2003年に「性同一性障害者(GID)特例法」が施行され、複数の医師の診断と性別適合手術などを要件に、生まれた時と異なる性別を戸籍に記載することができる。しかし、LGBTの全員が性別適合手術を受けたいと思っているわけではない。上述のトランスジェンダーの女性は、「自分の遺伝子を持つ子どもが欲しい」と手術を受けない決断をした。

性別適合手術を受けるには、保険適用が難しい100万円以上とも言われる高額な手術費と、継続したホルモン治療が必要になる。生殖腺を摘出すれば子どもはできず、後戻りはできない。しかし、手術を受けなければ、パートナーとの結婚もできず、社会生活上の不便を強いられる。特に深い悩みを抱えているのが戸籍上の性別が変更可能になる20歳前の子どもたちだ。

国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは、この問題を取り上げた報告書を3月に発表。「性同一性障害者特例法」によって、トランスジェンダーの人々が非自発的な断種を強制されているとして、日本政府に同法の改正などを求めている。

5月20日から28日にかけて開催される世界保健機関(WTO)の総会では、国際疾病分類(CID)の精神疾患のリストから性同一性障害(GID)が正式に除外される。新しい世界基準に合わせて、日本政府と日本の企業にいま、どのような行動が求められているのか。報告書を執筆したカイル・ナイト調査員にインタビューした。

━━この報告書の執筆のきっかけについて教えてください。

2016年に発表した日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除に関する報告書「出る杭は打たれる」がきっかけでした。約40人のLGBTの大人、そして青少年にインタビューをしましたが、その時に多くの若者が「大人になるのが怖い」と言っていました。彼らは成長して、大学に行ったり、仕事を始めたりする際に、戸籍上の性別を変えないといけない、そのためには性別適合手術を受けないといけないと考えていました。それが怖い、と言っていたのです。当時はいじめに焦点を当てて報告書を書いていたので、その後再訪問し、状況を調査しました。インタビューを追加し、HRW日本代表の土井香苗氏と報告書をまとめました。

━━報告書には、トランスジェンダーとして啓発活動をしている杉山文野さんが協力していました。

日本では、同性婚は認められていませんが、性別適合手術を受けて、戸籍上の性別を変えれば結婚はできます。杉山さんの場合、手術は受けておらず、戸籍上は女性のままです。女性のパートナーと結婚することはできません。パートナーの女性には赤ちゃんがいますが、杉山さんは父親になりたくても、手術を受けていないので、戸籍を変えることができず、彼女と結婚して赤ん坊の父親になることはできないのです。

文=成相通子

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