ビジネス

2019.05.26

食べながら学ぶ ベトナムのピザ屋に世界のメディアが殺到する理由

ピザのワークショップを通して、食の背景を学ぶ子どもたち。



Pizza 4P’s Xuan Thuy店の2階に併設される菜園では、野菜の収穫体験もできる。

青々と茂る菜園や小さな魚が泳ぐ池を興味深そうに眺めるのは、店舗を訪れた子どもたち。ピザワークショップなど子ども向けのアクティビティも充実する同店では、そこかしこから子どもたちの楽しそうな笑い声が聞こえてきます。

「これからの未来を担う子どもたちに価値あるものを伝えて繋げていきたい、という想いから、子どもたちにフォーカスしたこの新店舗は生まれました。アクアポニックスの導入も、急速な都市化によって自然と分断されつつある子どもたちに、自然界の営みを伝えたいと考えたことがきっかけです」と益子氏。

“社会”は、個の価値観とそれに紐づく行動が積み重なって形成されています。次世代の価値観を育むことは、持続可能な未来を創造することに他ならないでしょう。Pizza 4P’sの広く深い視点を持った取り組みは、サステナビリティの本質についても考えさせてくれます。


ミミズの飼育にあたり、土の品質向上や消臭のため、自家製チーズ製造時に出る廃棄物のホエイを利用。循環を徹底している。

従業員の意識変革がビジネスの成長に繋がる

このようにPizza 4P’sが推進するサステナビリティが、企業にとって重要な課題であることは、世界的に周知の事実。CSR(企業の社会的責任)や CSV(共通価値の創造)というキーワードを目にする機会が増え、サーキュラーエコノミー(循環型経済)はトレンドトピックでもあります。

しかしながら実際は、経済合理性を見出しにくいという理由で、サステナビリティ経営に舵を切りきれていない企業が大半です。

それでも、長期的に見ればそこには確実に経済価値が生まれると益子氏は言います。

「Pizza 4P’sでは、大規模なアクティビティはもちろん、サトウキビ由来のピザ箱の開発や、個包装のおしぼり廃止など備品まわりの細かな取り組みも行なっています。手間もコストも倍近く掛かりますが、ストローを使い捨てのプラスチックからステンレス素材に変更した際、ベトナム人スタッフからポジティブな反応があったんです」

世界中で喫緊の課題と叫ばれるプラスチックによる海洋汚染は、ベトナムでも深刻な問題として取り沙汰されています。

そんな背景から、プラスチックのストロー廃止は自国の海を守ることと結びつき、それまで“サステナビリティ”と言われてもどこかピンときていなかったスタッフも自分事として捉えることができたようです。それ以来、非協力的だったゴミの分別や食材廃棄の削減に対しても、努力してくれるようになったと言います。

「嬉しいことに、地域や社会に貢献しているという実感を得ることで、Pizza 4P’sを誇りに思えるようになったという声を聞くようになりました」と益子氏。サステナビリティへの取り組みをきっかけに、従業員の帰属意識が高まり、より良いサービスを提供できるようになる。それがステークホルダーへ伝わり、ビジネスの成長に繋がっていくという良い循環が生まれています。

サステナビリティ経営における経済価値は、取り組みそのものでなく、取り組みから創出される企業文化にこそあると理解することが大切でしょう。
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文=佐藤祥子

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