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2019.05.22

テンセント出資の空飛ぶタクシー、独「リリウム」が初飛行

rafapress / shutterstock.com

空飛ぶタクシーを開発中のドイツのスタートアップ「Lilium(リリウム)」は5月4日、フルスケールの電動航空機による飛行テストに成功した。同機は、ダクトファンの向きを変えることで垂直に離発着し、通常の航空機と同等の速度と効率性で飛行することが可能だ。

Liliumによると、同社の航空機は、パイロット以外に乗客4名と荷物を乗せて300kmの距離を飛行することができるという。速度は時速300kmで、速度・航続距離ともに競合他社の電動航空機を上回るという。

ミュンヘンに本拠を置くLiliumは、既存の航空会社がカバーしていない大都市間の輸送を、オンデマンドで安く、速く提供することを目指している。「我々は、1時間で移動できる距離の概念を変えたい」とLiliumのチーフ・コマーシャル・オフィサー、Remo Gerberは話す。

同社はこれまでにベンチャーキャピタルから1億100万ドル(約111億円)を調達しているが、これは空飛ぶタクシーを手掛けるスタートアップとしては最大規模の金額だ。しかし、アナリストの多くは、Liliumの目指すビジョンを実現するには、これを遥かに上回る資金が必要だと考えている。


公開されたLiliumのテスト飛行の模様。ラストにはスタッフらが抱き合って成功を喜ぶ様子が収められている。

Liliumが優れた実力を備えていることは間違いない。同社は、エンジニアリングを専攻する4人のドイツ学生によって2015年に設立された。同社は、独自の電動エンジンを開発し、主翼と先尾翼に36基のエンジンをマウントし、2000馬力もの出力を実現した。

「これは巨大なパワーだ」とイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で航空宇宙工学を教えるPhilip Ansell教授は話す。これに対し、4人乗りヘリコプター「ロビンソンR44」は、245馬力に過ぎない。

Ansellによると、Liliumが目指すペイロードと重いバッテリーを積んで飛行するには、それだけの馬力が必要だという。バッテリーのエネルギー密度は、ジェット燃料の40分の1程度のため、電動航空機はパワーウェイトレシオが低い。同社によると、ひとたび水平飛行に転ずれば、翼の揚力によって10%以下の馬力で飛行することが可能だという。

機体は、エンジンの出力を調整することで空中での姿勢をコントロールするため、フラップを搭載する必要がない。Liliumは、機体の重量やバッテリーの仕様を公開していないため、同社の主張するペイロードや航続距離を精査することは困難だが、Ansellによると想定される値の上限に近いという。

Liliumが電動航空機をジェット機とアピールしていることについては議論の余地がある。しかし、VTOL(垂直離着陸機)の競合製品の多くがプロペラ機である中で、ジェット機としてブランディングするほうが、セクシーなイメージを醸成できることは確かだろう。
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編集=上田裕資

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