好調に滑り出したサブスクリプションモデルへの移行ではあったが、2013年5月にCCのサブスクリプション版への一本化が発表されると、顧客や投資家、社員など社内外から反発の声が挙がったという。実際、2012年11月時点で26.8パーセントあった営業利益率は2013年11月に10.42パーセント、2014年11月には9.95パーセントと大幅に下がった。
「サブスクリプションモデルへ移行し、収益認識基準が変わることで一旦利益が下がるのは避けられないこととはいえ、やはり恐怖感は否めませんでした。けれども長期的にいかに事業を成長させていくか。そして顧客によりよいイノベーションや体験を届けられると説明しつづけることで、信頼を勝ち取っていくことができました。何より喜ばしく、また驚くべきことだったのは、サブスクリプションによって新規顧客比率が飛躍的に伸び、いまではその半数が新規顧客なのです」
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アドビでは現在、CCとDC、そしてデータ・アナリティクスやマーケティング支援などを取り扱うExperience Cloud(以下EC)の3事業を柱とし、直近の2019年度第1四半期では3事業で25億2300万ドルの売上を記録。そのうち91パーセントがサブスクリプションによるものだ。
中でもラムキン氏が注視するのは、2022年のサブスクリプションモデル完全移行を予定するDC事業だ。
「この世にPDF文書は何兆とあるでしょうが、このフォーマットを標準化し、ベストなプロダクトを作ってきたのは我々に他ありません。ドキュメントをスキャンしてフォームへ記入し、電子署名を行うというワークフローのデジタル化は、生産性向上を目的としてどんどんニーズが高まっていくでしょう。そこに我々のナレッジやAI技術を活用し、次世代のドキュメントPDF開発や、より生産性を上げる技術に投資していきたいと考えています」
アドビが活用するAI技術として注目されているのは、2016年に発表された「Adobe Sensei」だ。Adobe SenseiはAIと機械学習を統合したもので、CC、DC、ECいずれにも搭載されている。たとえばCCでは画像検索や顔認識による補正、DCでは高度な文書スキャンやアクセシビリティの向上、ECでは異常値検出や予算配分の最適化などが可能となる。
「Adobe Senseiでは、我々が『ドメインエキスパート』と呼ばれるような領域へフォーカスし、これまで培ってきた経験や直感、データをもとに、想像もしなかったようなことを可能にし、顧客に喜んでもらえるようなサービスを提供していきたい。誰も3分で済むような作業を3時間もしたいとは思わないでしょう? 反復的なタスクはAdobe Senseiに任せ、コアとなるクリエイティビティを発揮することができれば、生産性も上がり、仕事満足度も上がるはず。そうすれば雇用も創出されるはず。ですから、『AIが人の仕事を奪う』なんてことは起こらないのです」