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出典:Gettyimages

ライセンス版の「売り切りモデル」からサブスクリプションモデルへと転換するにあたって、社員に大きく意識変革が起こったのは、「売上とアップグレード」への注力から、「顧客エンゲージメント」にフォーカスするようになったことだったとラムキン氏は語る。

それが端的に表れているのが『Data-Driven Operating Model(DDOM):データドリブン・オペレーティング・モデル)』と呼ばれるアドビ独自の指標だ。顧客の購買行動を「DISCOVER(発見)」→「TRY(体験)」→「BUY(購入)」→「USE(使用)」→「RENEW(更新)」の5ステージに分解し、各ステージで顧客満足を得られているかどうか、数値化して注視しているのだ。そしてこれはKPIとも連動している。

「購入しても使いこなせなかったり、一部の機能しか使えなかったりするようでは、顧客満足は得られません。もっとも重要視しているのは、売上でも顧客数でもなく、エンゲージメントが安定的に顧客一人ひとりに担保できているかどうかなのです」

だが、一口に顧客エンゲージメントといっても、それを得るのはそうたやすいことではない。ここで重要なのは「顧客のセグメント化・クラスタ化」だとラムキン氏は指摘する。

「お客様はすべて同じと考えてはなりません。たとえば私と私の息子の世代ではフォトショップを利用する時間帯も違うでしょうし、アマチュアの写真家はあまり頻度が高くなくても、使うときは熱心に使うかもしれない。また、実はモバイル版の顧客とデスクトップ版の顧客ではエンゲージメントがまったく違うのです。

ですから顧客を考える際、どんな動機でどんな意図を持っているのか、どんな振る舞いをしているのか、微妙なニュアンスに至るまでが重要なのです。各個人が何を成功とするか、どんなことに価値を感じられるのか、つぶさに考えていかなければなりません。ただしその際、データが重要なのは確かですが、それだけでは『顧客が次にどこへ向かうか』はわからない。業界や市場動向への洞察や顧客インサイトなども加味して、最終的に判断するのは“直感”なのです」

そしてその解を出すには、「顧客に寄り添うこと」に尽きるという。「顧客の『こんな製品が欲しい』といった声の裏側にある『なぜそれが欲しいのか』というモチベーションを理解しなければ、本当の意味での理解にはなりません。そしてカリフォルニアで開発しようがどこにいようが、その製品が世界のどの国でどのように使われる可能性があるのか、“今日の顧客”だけでなく“明日の顧客”を見据えたうえで彼らに寄り添っていかなくてはならないのです」

国内でもさまざまな企業の参入事例が相次ぐサブスクリプションモデルだが、最後にラムキン氏に「成功の秘訣」を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「これまでの考え方を一旦捨て、異なる視点からビジネスを考えること。とにかく顧客にフォーカスし、大胆な意思決定を行い、それをやりつづける勇気を持つことです。振り返ればはじめてアドビに入社した1992年当時、組版が『PostScriptファイル』に取って代わり、アドビとともにアップルやキヤノンがプリンタエンジンを作ったことで、既存の業界が破壊され、アドビはそれまでの10倍もの顧客を獲得することができました。

すべてはディスラプションという革命から生まれたのです。そしていまその革命は、アドビがメインとしてきたデスクトップの領域でも起こっています。イラストや画像、写真、ビデオ、ウェブパブリッシング、モバイルアプリ……『イノベーション』というカテゴリーを作るのが、アドビのDNAとして息づいている。変革を起こしたからこそ、もともと何十万規模の顧客がいた業界が何百万規模、何千万人規模となり、いまでは何億人規模になった。それを誇りに思いますし、ビジネスの成功はやはり、最終的には顧客の成功に紐づいているのです」

文=大矢幸世 写真=小田駿一

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