サブスクリプションモデルで売上高2倍超
アドビは2012年5月に「Photoshop」や「Illustrator」など画像編集ツールなどを統合した「Adobe Creative Cloud(以下CC)」を、そして2015年3月にはPDF編集管理ソフト「Adobe Acrobat DC」とクラウドサービス「Adobe Document Cloud(以下DC)」をリリースし、順次ライセンス版からサブスクリプション版へ移行(CCは2013年、DCは2022年予定)。収益構造の大改革を行なった。
結果、2011年11月時点で売上高42億1625万ドル、営業利益率26.07パーセントだったのが2018年11月には売上高90億3000万ドル、営業利益率31.45パーセントへと躍進。株価も25.83ドルから278.48ドルへと大幅に伸長した。
その成功の立役者の一人が、デジタルメディア事業部門担当エグゼクティブバイスプレジデント(上級副社長)兼 ゼネラルマネージャーを務めるブライアン・ラムキン氏だ。ラムキン氏は1992年にアドビへ入社し、フォトショップやイラストレーター、「Premiere」といったアドビの代表的な製品のプロダクトマネジャーを務めた後、2002年に一旦アドビを退社。米ヤフーのコンシューマー向け製品部門のシニアバイスプレジデントやベンチャー2社のCEOを歴任し、Sutter Hill VenturesやNew Enterprise Associatesで役員を務めた後、2013年にアドビへ復帰した。
「アドビを辞めてからもずっと交流は続いていて、『いつ戻ってくるの?』と半年ごとに言われるほどでした。家族との時間も大切にしながら、一旦出版やデザインの領域から離れてイノベーションの行き先を見つめようと社外で活動してきましたが、アドビが新たなチャレンジに際し、クラウドサービスを構築しようというタイミングでもあったので、その成長を牽引する手助けができたらと考えたのです」
サブスクリプションモデルへの移行には「痛み」も伴う
2012年当時、CCの売上は堅調に推移し、年度売上高も過去最高(当時)となる44億400万ドルを記録。サブスクリプションモデルを他事業へも展開しようと画策するタイミングだったとラムキン氏は振り返る。
「当時、世の中は急ピッチに変化していました。2010年にiPadが誕生し、2011年にiPad2、2012年にはMicrosoft Surfaceと、新たなデバイスが次々と発売され、顧客もその変化の波にさらされることとなりました」
出典:Gettyimages
「また、iPhoneやスマートフォンなどによってコンテンツ市場も爆発的に拡大し、そのコンテンツ制作を支える環境も構築しなければなりませんでした。制作はメインデバイス、仕上げは別のデバイスと、複数のデバイスを使いながら、さまざまな人とコラボレーションするには、プラットフォームを統合したクラウドが必要となる。そういった状況下では、それまでの『18カ月ごとに新商品を発表し、アップグレードを促す』ようなサイクルでは、イノベーションのスピードに追いつけなくなってきたのです。その時々の顧客のニーズに合わせ、求められるサービスを都度提供していく必要がありました」