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2019.05.20

「微生物工場」開設の米新興企業、買収でゲノムマイニング強化へ

Photo courtesy of GINKGO BIOWORKS

バイオベンチャーの米ギンコ・バイオワークス(Ginkgo Bioworks)は5月15日、レボリューション・メディシンズ(Revolution Medicines)傘下のワープ・ドライブ・バイオ(Warp Drive Bio)が開発した「ゲノムマイニング」プラットフォームを買収したことを明らかにした。

マサチューセッツ州ボストンに本拠を置くギンコのジェイソン・ケリー最高経営責任者(CEO)はフォーブスの取材に対し、13万5000以上の菌株に関する情報を含んだデータベースが利用可能になれば、400万を超える生合成遺伝子群を符号化し、それらに基づく新たな抗生物質の開発を実現できるかもしれないと述べている。買収額は公表していない。

ケリーによると、ワープ・ドライブはレボリューションに買収される以前、製薬大手ロシュとの提携により、抗生物質の発見・開発を目指していた。この契約の下、新たに開発した抗生物質の販売については、ロシュに独占的ライセンスの取得に関する選択権が認められることになっている。

そのため、ギンコは抗生物質を発見して臨床試験の段階まで進めることができれば、ロシュから総額1億6000万ドル(約176億円)を受け取ることができるという。ただ、この点についてロシュはコメントを控えている。

合成生物学の分野をリードするギンコは、ユニコーンになる可能性がある企業を選ぶフォーブスの「次世代スタートアップ(Next Billion-Dollar Startups)」2017年版に選出されており、現在の評価額は10億ドルを超える。香料や食品・農業部門に重点を置いており、伝統的な科学研究所には実現できなかったスピードやコストで微生物の遺伝子組み換えを行う「自動化された工場」を4カ所に開設している。

一方、ワープ・ドライブのプラットフォームは、ゲノムマイニングにより新たな抗生物質の開発につながり得る100以上の細菌の「網」の分析・評価を可能にするものだ。抗生物質への耐性を持った微生物が増加していることから、研究分野としての抗生物質の重要性はますます高まっている。耐性菌の増加で、一部の感染症については現代医学の“戦う力”が脅かされている。

抗生物質はこれまで、主に偶然によって発見されてきた。そして、ケリーによれば、1980年代に発見されたダプトマイシン以来、目立った発見はない。ギンコは今後、ゲノムの配列を解析することで微生物についてより体系的に調査し、隠された抗生物質の発見を目指す。

ワープ・ドライブは、ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授とグレッグ・バーダイン教授が2012年に共同で創業した。仏製薬大手サノフィとバイオ技術企業への投資で知られる米サードロック・ベンチャーから1億2500万ドルを調達。その後、抗生物質に関してはロシュと、がん研究に関してはグラクソ・スミスクラインと提携するなど、製薬業界との協力を推進してきた。

ワープ・ドライブは当初、ロシュから前払い金と目標達成ごとの報奨金として、総額3億8700万ドルまでを受け取ることができる契約を結んでいた。だが、同社の野心的な目標は創業から6年がたっても達成されることがなく、昨年10月、カリフォルニア州レッドウッドシティーに拠点を置くレボリューション・メディシンズに買収された(買収額は非公開)。

レボリューション・メディシンズはがん治療、特にがんに関連するRASタンパク質の阻害による治療の研究に力を入れており、その点からワープ・ドライブに関心を持っていた。

編集=木内涼子

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