衛星打ち上げの老舗「アリアンスペース」とスペースXの競争

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宇宙ロケットが10年前と比べて大幅に進化したことは誰の目にも明らかだ。スペースXは定期的にロケットを打ち上げて複数のミッションを遂行している。宇宙船のサイズも以前よりかなり小型化が進んだ。

1980年にフランス、ドイツなど欧州主要国政府の共同出資で設立されたアリアンスペース(Arianespace)のような老舗は、スピード感あるイノベーションを次々に起こさない限り時代に取り残されてしまう。

しかし、フランスに本拠を置くアリアンスペースは2019年、好調なスタートを切ったようだ。同社は今年、既に総額42億ユーロ(約5200億円)の契約を結んでいる。スペースXと張り合うために同社はロケット「アリアン5」の価格を40%も削減することに成功し、後継機のアリアン6とヴェガCの開発も順調のようだ。

大型の静止衛星の打ち上げ市場は現在活気がないが、同社はそれ以外のニーズをくみ取って顧客の獲得に乗り出している。今年2月には、衛星通信会社のワンウェブの衛星6機の打ち上げを成功させた。

アリアンスペースのステファン・イズラエルCEOは、2019年に入って同社が好調な理由に、静止衛星から距離を置いたことを挙げる。「商業的な観点から見ると、静止衛星を取り巻く状況は動きがほとんどない。ビジネスチャンスは以前よりも減っている」

さらに、アリアン6の開発も順調で、来年初の打ち上げ実験を行った後に実用化できれば、今までよりも多くの選択肢を顧客に提供できるという。アリアン6は再点火が可能なエンジンを搭載しているため、軌道上で出来ることが広がる。

「アリアンスペースは年明けから好調を維持している」とコンサル会社Northern Sky ResearchのシニアアナリストのShagun Sachdevaは述べた。複数の衛星の同時打ち上げは同社にとって大きなプラスであり、利益につなげていると分析する。

ただし、新型ロケットでどれだけイノベーションを起こせるかが問題だとも彼女は指摘した。既に再利用に必要なインフラを構築した、スペースXの方がコストカットの観点では有利だという。「スペースXは、特に政府との契約においてさらに価格を下げることができるが、アリアンスペースには限界がある」

イズラエルCEOはアリアン6の打ち上げまでの道のりは長いと認めている。しかしエンジンのテストやロケットの生産開始など、これまで設定してきた目標は達成している。

最大の課題はコストの削減

イズラエルCEOはアリアン6をアリアン5の耐久性を高めたものと位置づけ、様々な衛星を軌道に乗せて「市場に進化をもたらす」存在だと語る。「生産コストが1番の課題で、今ではアセンブリの工程の多くが水平に行われているため、仏領ギアナでの打ち上げに要する日数は30日から10日に縮小できる」

今後のシェアの維持については、同社には長年培ってきた顧客との信頼関係という強みがある。アリアンスペースの株式は親会社のアリアングループが74%を保有しているが、残りの26%はヨーロッパの打ち上げ関連企業など15の株主が保有している。

アリアンスペースは今年1月、2018年を総括し2019年の方向性を示す年次レポートを発表した。同社は今年始めの時点で、総額42億ユーロに及ぶ54回の打ち上げの受注を得ており、70%は商業関連、30%は研究関連とされた。

2018年に同社は14億ユーロ(約1740億円)の売上をあげ、ギアナ宇宙センターから11回の打ち上げを行っていた。

編集=上田裕資

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