その意味を考えさせる寓話がある。「百足」と書いて「ムカデ」と読む、奇妙な虫の寓話である。
ある暑い夏の日、ムカデが一生懸命に歩いていた。すると、通りかかったアリが言った。「ムカデさん、凄いですね。百本もの足を、絡み合うこともなく、乱れることもなく、整然と動かして歩くなんて、さすがですね」
その誉め言葉を聞いて、ムカデは、ふと考えてしまった。「なぜ、自分は、これほど上手く、百本の足を動かせるのだろうか。アリさんの言うとおり、絡み合うこともなく、乱れることもなく、なぜ、整然と動かして歩くことができるのだろうか」
そう頭の中で考え始めた瞬間に、ムカデは、一歩も動けなくなってしまった。先ほどまで、何の苦もなく無意識に動かしていた足を、一歩も動かすことができなくなってしまったのである。
この寓話は、我々人間の心の姿を教えてくれる。
なぜなら、我々もまた、しばしば、この心の病に陥ってしまうからである。
「自意識」の過剰。
心の中の「エゴ」すなわち「自我」が陥るその病によって、我々は、いつも、素晴らしい力を持ちながら、それを発揮できなくなってしまう。
例えば、ゴルフなどで「褒め殺し」という言葉がある。好調なスタートを切り、見事なプレーを続けるゴルフ仲間に、ただ一言、「今日の君は、神懸かり的だな」と語りかける。それだけで、その仲間は、自分のプレーに意識過剰になり、崩れていく。