広さ5万平方フィート(約4600平方メートル)の店内では、商品の補充や、生鮮食品や肉類といった傷みやすい食材の鮮度維持に、人工知能(AI)が使われている。
IRL部門の最高経営責任者(CEO)マイク・ハンラハン(Mike Hanrahan)は、「この店では、在庫はあるか、生鮮食品や肉類は新鮮かといった点について、買い物客が心配する必要はない」と話す。必要なものを確実に買いそろえられるので、利用客はより効率的にショッピングできるという。
肉売り場で実施されたAIのデモンストレーションを見学したところ、売り場から肉がなくなると、ウォルマートの店員(アソシエイツ)に対して、「対応が必要」という知らせが行くようになっていた。
これはある意味、アマゾンが展開するレジ無しコンビニ「アマゾン・ゴー(Amazon Go)」を思い出させるものだ。ただしアマゾン・ゴーでは、買い物客は商品を手に取ったらすぐに店を出られるが、ウォルマートのアプローチは違う。IRLで導入されているテクノロジーは、あくまでも商品在庫に関する問題を解決するためのものだ。利用客は、選んだ商品をレジに持って行って支払いをする必要がある。
こうしたテクノロジーのテストは、現代の環境においては必要不可欠だ。ハンラハンCEOは興奮気味に、「ここには、4600平方メートルもの広さを持った本物の小売スペースがある。テクノロジーのおかげでわれわれは、以前よりはるかに多くの情報を瞬時に把握できるようになっている」と語る。IRLは、店内で起こっていることの情報を収集するために設置されている。
IRLでは、AIをどう活用するか、そして、それをいずれ全店舗にどのように導入していくかについて、実験が行われている。店内にはあらゆる場所にカメラが設置され、その内容をもとにAIが状況を分析する。たとえば、買い物客が最後の商品(ひとつだけ残っていたステーキ肉など)を手に取った後、即座に補充されたか確認が行われるようになっている。
まずはAIシステムが、商品の在庫情報や店内での販売状況の把握を支援する。次に、店側がリアルタイム情報をもとに、店員に対して商品補充のタイミングを指示する効率性を検証する。
買い物客は、ウォルマートの大型店舗「スーパーセンター」よりネイバーフッド・マーケットを訪れる頻度の方が高いため、テストされるべきシナリオや状況は多い。目指しているのは、多くの選択肢をテストし、実用的な解決策を導き出すことだ。
店内のいたるところにカメラやセンサーが設置されており、そこで得られたデータは、同じく店内にあるデータセンターへと送られている。その情報量は毎秒1.6テラバイトに上る。
データセンターは100基のサーバーから成り、ガラス越しに買い物客から見えるようになっている。テクノロジーの裏側を垣間見れるようになっているわけだ。買い物客に対して自社技術を披露するのはスマートなやり方だと思う。また、関心のある買い物客に向けて、導入されているテクノロジーについての説明が掲示されている。買い物客が双方向でやりとりできる教育的ディスプレイも設置されている。
この実験店舗は、ウォルマートにとって貴重な一歩だ。テクノロジーを利用した実店舗の展開はアマゾンに先行されているため、経営サイドにはそれをしのぎたいという思いがあるのだろう。このネイバーフッド・マーケットは来客数が多いため、売上の伸びと、そこで提供されているテクノロジーが顧客にどれだけ受け入れられるかで、成果が評価できる。
ウォルマートは、新しいテクノロジーを使って買い物客にできるだけ迅速にサービスを提供することを方針として掲げており、この新たな取り組みはその一環だ。実際の店舗でこうしたさまざまな試みが行われているということは、技術的進歩の一部は開発を終えており、実際に導入される段階に達しているということを示している。
ほかの小売店でも新しいテクノロジーが導入されつつあるが、その多くは、現金決済やレジ係を廃止したいという発想がもとになっている。アマゾン・ゴーは現在、シアトル、シカゴ、サンフランシスコ、ニューヨークシティで12店舗が営業中だ。
また、ダラスにあるセブン-イレブン(7-Eleven)の実験店舗では、買い物客が自分で商品をスキャンして支払いができる独自技術「Scan & Pay」によるキャッシュレス決済が導入されている。ウォルマートも、傘下の会員制スーパー「サムズ・クラブ」で、レジなし店舗をオープンした。
政府による規制により、キャッシュレス決済店の数を急激に増やせない可能性もあり、筆者は事態を見守っている。しかしAIは、規制の対象になりにくい技術だ。小売業者はAIが、買い物客の時間を節約し、従業員を助け、収益性を向上させる革新的な開発をすぐに可能にする、優れたツールと考えているようだ。