米国ではトヨタ86の値段でカマロやマスタングが買える
1980年代のAE86型カローラレビン/スプリンタートレノに因んで86と名付けられたこのスポーツカーは、米国では当初、トヨタが若者向けブランドとして展開していたサイオンから、FR-Sという車名で販売されていた。
2016年にサイオン・ブランドが廃止される際、サイオン FR-Sはトヨタ・ブランドから継続販売されることになり、車名も日本と同じトヨタ86に変えられたという経緯がある。"フロント・エンジン"とリア・ドライブ"、そして"スポーツ"を組み合わせた分かりやすいネーミングから、知らない人には意味不明な数字にいきなり車名が変わり、面食らった米国人も少なくなかったに違いない。
現在、米国市場におけるトヨタ86の価格は2万6505ドル(約290万円)から。ハコネ・エディションのベースとなった中間グレードの「GT」は2万8635ドル(約314万円)となっている。これに相当する装備を持つモデルは、日本では「GT“Limited”」と呼ばれ、消費税込み価格は325万800円だ。
為替レートの関係もあるが、本国の日本より安いくらいの価格でクラス唯一の後輪駆動クーペが買えるのだから、米国でもクルマ好きから歓迎されているはず……と思いきや、実は米国ではそれだけの金額を出せば、同じ後輪駆動クーペで、86より車格もパワーもずっと大きな、フォード・マスタング(2万6395ドルから)やシボレー・カマロ(2万6495ドルから)が買えるのだ。
シボレー・カマロ
フォード・マスタング
日本のクルマとマンガを愛する人へ
それでもあえて小さくて非力な日本車を購入するというような人は、スポーツカーというだけでなく日本のクルマ・カルチャーが好きなはず、と米国トヨタのマーケティング担当者が『頭文字D』や『MFゴースト』といった日本のマンガやアニメを見ながら考えたとしても無理はない。日本の走り屋を描いたマンガで、1980年代のAE86に再び脚光を浴びせることになった『頭文字D』の続編である『MFゴースト』(現在『週刊ヤングマガジン』で連載中)では、主人公が現行のトヨタ86に乗り、世界各国の(はるかに高額な)スーパーカーを相手に戦う。しかも物語の舞台は箱根なのだ。
なお、トヨタ86ハコネ・エディションが箱根町を含む日本のトヨタ販売店で売られる予定はない。なにしろ箱根は日本の"聖地"である。トヨタ86が箱根ターンパイクでコースレコードを記録した、ということでもない限り、やすやすと聖地の名前を車名に使うことは、他のスポーツカーを愛するクルマ好きが許すはずもなく、もちろん日本のトヨタはそれを承知しているはずだ。
トヨタ86 GT“British Green Limited”
日本ではなぜか「ハコネ」ではなく「ブリティッシュ」
それでもこの特別なグリーンで塗られたトヨタ86が欲しいという人は、日本にもいるだろう。ご安心を。米国のトヨタ86ハコネ・エディションとほぼ同じ仕様の86が、日本では「ブリティッシュ・グリーン・リミテッド」という名前で発売されるのだ。
かつて英国のレーシング・チームがレースに参戦する際、国籍を表すナショナル・カラーとして緑色で車体を塗っていた史実と、トヨタ86はもちろん何の関係もない。しかし、米国ではハコネ、日本ではブリティッシュという言葉が、なぜか車名に付けられたクルマそのものに罪はない。
ネーミングのセンスはともかく、このカラーリングが気に入ったなら、お早めにトヨタ販売店へ。特別仕様車トヨタ86 GT“British Green Limited”は、5月31日までの注文期間限定となっている。