データによる人材管理が行き過ぎると、第2次産業革命の時代に戻りかねない

映画「モダン・タイムス」より(Keystone-France / Getty Images)


人間は感覚や感情、心理状態、身体的状況など個々で異なっている。1+1=2と単純に割り切れるものではない。複雑な故に、足し算や引き算で生産性が図れるものではない。時には乗算で成果が上がったり、反対に極めて生産性が落ちることがある。

重化学工業の技術革新をもたらした第2次産業革命時代は、電力というエネルギーを得て大量生産を実現した時代といわれている。重厚長大な産業が急成長し、人は産業装置を回す部品になった。チャップリンが映画『モダンタイムズ』で、人間としての尊厳より機能の一部でしかないと歯車に巻き込まれるシーンなどで当時を風刺している。

20世紀後半のコンピュータの進化、パーソナル化やインターネットの発展は第3次産業革命といわれている。そこでは、単純労働が減り、業務の効率化が進んだ。人材マネジメントは成果主義に代表されるように個人業績主義が主流となった。個人業績主義は与えられたタスクの成果のみが問われる。しかしながらこのことは第2次産業革命時代のマネジメントの基本と変わらない。ひとりひとりの個性や感情は、本人の努力義務としてあまり配慮されてこなかった。

第4次産業革命では、どんな人材マネジメントになるのだろうか。

前出の人事部長が、ふと言った言葉が気になった。

「これからはAIが業務を回していくようになると、従業員は操作さえできればいい時代が来る。特に高学歴でなくても、マニュアルに沿った操作さえできる人がいればいいのではないか」

これではまるで、『モダンタイムズ』の時代のようだ。

第4次産業革命時代、人間は作業員ではなく、いっそう知恵を創造性を発揮することが求められるはず。なぜならば、ビッグデータがもたらす膨大な情報は次々にあたらしいサービスを生み、社会環境は急激に変化する。


(Jasmin Merdan/Getty Images)

この第4次産業革命時代のマネジメントは、チームの時代だと筆者は考えている。急激な時代の変化において、ビジネスモデルの賞味期限は短くなってくる。このスピードに乗っていくためには、個人では限界がある。強み弱みを補完してシナジー効果を生むチーム力が必要だ。

また、新しいサービスが生まれるには、年功や経験よりも個人の感性や能力のほうが重要な要素である。

このように考えていくと、現場のマネジメントにおいては、これまで以上に個人の感情や性格を踏まえたきめ細かいマネジメントが必要だと思う。

個人を活かし、チームでの成果を高めることが、ビッグデータ時代のマネジメントなのだ。

人材のデータベースは個人の能力を最大化するための情報であり、まだまだ現場のマネジメントの補助機能にすぎない。

HRテクノロジーの躍進で、人材管理は今後、個性や感情といったものまでデータとして保存されていくのだろう。しかし、そのデータが現場で生身の人間のマネジメントに活かすことができなければ、人間を活かすという点で第2次産業革命となんら変わることないだろう。

文=石見一女

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