データによる人材管理が行き過ぎると、第2次産業革命の時代に戻りかねない

映画「モダン・タイムス」より(Keystone-France / Getty Images)


これからの人事部門は人材データ管理部門になる?

ある大手人材情報会社では、人材情報をデータ化し、将来の採用、配置、育成などの自動化を目指した取り組みをしている。

具体的には、採用時には適性検査で採用選考。入社後はベンチャー企業が提供するPO-fit(組織適合)のサービスで、配属先の組織文化にあった人材を配置。学習履歴、従業員満足度調査、360度評価、業績評価など詳細に社員情報をデータ化している。

実際に人材データの活用の実効性について聞いてみた。まずはPO-fit(組織適合)による配置では、配置の際の納得度には効果的だが、生産性までは追求できていない。また評価と従業員満足度の分析から、優秀と評価されていた女性リーダーが管理職に登用されると伸び悩む傾向があることがわかったという。

様々な人材の情報がデータベースとして管理されるようになると、人事部門の役割も変わってくる。人材データの管理と、分析から導き出される傾向から、採用、配置、評価、処遇をシステマティックに分類する部門になる。この会社の人事部門はその先駆けなのかもしれない。

人間の複雑性の理解がなければ、第2次産業革命時代のマネジメントになりかねない

データに頼りすぎる人材マネジメントが一般化すると、どうなるのだろうか。

経営学の第一人者である加護野忠男氏(神戸大学名誉教授・甲南大学特別客員教授)は「経営において、人間は複雑なものということを忘れてはいけない」という。

経営学でファーストインクワイアリーと呼ばれている実験がある。アメリカ・フィラデルフィア州にある紡績工場がハーバード大とペンシルベニア大ウォートン校の学者たちを招き、業績の悪い工場のミュール紡績機の部門の生産性を高めるためのアドバイスを聞いた。

学者たちは、糸繰りという孤独な単調作業の紡績機を扱っている従業員は疲れているのではないかと考え、午前に10分、午後に10分休憩を与えたらよい、と提言した。ただ、全員に休憩を与えたら、休憩に効果あるかどうかわからないから、1/3の人だけ休憩を与え、残りの2/3は休憩を与えないようにしたらよいと助言した。休憩に効果があれば1/3の人の業績は上がるはずである。ところが休憩しなかった2/3の人までの業績まであがってしまった。

この話の背景には、休憩時間が増えることで生産性が落ちると休憩時間増加に反対した現場監督に対する反発の感情や、その現場監督の考えを抑えて、従業員の働き方を考えようとした経営者に対する信頼といった感情が影響したといわれている。この実験により人間は労働時間のような単純な指標ではなく、感情やそれにともなう人間関係などが複雑に生産性に影響しあうことがわかった。経営ではその複雑性を踏まえなければいけないことに気付いたといわれている。

加護野氏はファーストインクワイアリーの実験を示しながら、データ偏重の人材マネジメントに注意を促している。そもそも人間の複雑性に理解を示さない人は工学的に人間を見ているからではないか、と指摘している。
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文=石見一女

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