データによる人材管理が行き過ぎると、第2次産業革命の時代に戻りかねない

映画「モダン・タイムス」より(Keystone-France / Getty Images)

今、第4次産業革命といわれている。第4次産業革命にはさまざまな定義付けがされているが、ひとつには「ビッグデータ」の時代を指すこともある。

膨大なデータがインターネットを通してつながり、AIやIoTが新たな社会基盤として構築されつつある。

革命の影響は働き方にも及んでいる。すでに雑誌などで「将来AIに奪われる職業」といった特集がされるなど、ビッグデータの時代が私たちのキャリアにも関わってきている。

IT化が遅れていた人事領域にも、ビッグデータの波が押し寄せている。HRテクノロジー(ヒューマンリソーステクノロジー)と言われる事業領域が、近年、急激に伸びてきている。

将来は人工知能が人事部長に?

人事といえば、かつては「KKD」、すなわち「勘と経験と度胸」といわれていたが、今はデータに基づく科学的な人事を求められている。

人事の機能とは何か。それは、「採用」「教育」「配置」「評価」「処遇」だ。

採用においては、すでに様々な適性試験がなされてきた。最近では、P-O fit(組織適合)の研究が進んでおり、HRテクノロジーベンチャー企業の中には、既存組織の文化と適合する人材かを判断できるサービスも提供されている。

配置においても、人材のデータベースから人事評価、人材の適性、職務と職場の関係性といったさまざまなデータを蓄積し、そのデータに基づいた適切な人材配置を人工知能を用いて提示させるなど、すでに理論上可能な段階なのだ。

かつて人事の責任者が、まさしくKKDで自らの頭の中に入れ込んだ社員情報から適切な人材をピックアップして配置していたことが、パソコンの画面で処理できてしまう。人事業務が効率化され、人事のプロフェッショナルは必要なくなる日がくるのだろうか。実質的に、人工知能が人事部長となることだってありうるのだ。

人事機能を人工知能にゆだねていく時代になると、経営者が人事情報を提供する人工知能に適切な人材のピックアップと組織編制を依頼し、そのご託宣を受けて組織づくりを行うことも可能だ。また、管理者が部下の評価を行うのではなく、示された実績評価データや過去の人事情報データから自動的に評価し、処遇が決定される。

とはいえ、である。たしかに効率的で人材のマネジメントのストレスから解放されるかもしれないが、なにやら気味が悪い気もする。このようなことは果たして、真に人と組織の成長において意味のあることなのだろうか。


(Thanakorn Phanthura/Getty Images)

HRテクノロジーの現状

米国でHRテクノロジーの最新の技術を発信する場として世界最大級といわれる「HR Technology Conference & Expo」というイベントが毎年開催されている。2018年は21年目の開催となった。出展企業は400社を上回ったという。すでに20年も前から、人事領域のIT化について議論がなされ、サービス化が進んでいる。人材情報システムや労務管理システムだけでなく、近年では、従業員のエンパワーメントや承認などによるエンゲージメントなど、心理的な要素もHRテクノロジーの分野として広がってきている。

日本でHRテクノロジーが注目され始めたのは、数年ほど前だ。筆者はHRテクノロジー領域で、エンゲージメント支援サービスを展開する事業を2011年からおこなっているが、創業当時には投資家からまったく理解されなかった。

しかし日本でも遅ればせながら、様々なHRテクノロジーサービスの導入が進みだしている。

HRテクノロジー領域のサービスから蓄積されてくる人材情報は、やがて採用、配置、処遇、転職やキャリアに関連するビッグデータとして新たな基盤として活用されることになるのだろう。
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文=石見一女

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