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──精力的に活動を続けていますが、パッションの源泉は何ですか。

「自分を待ってくれている人がいるはず」。13歳のときに家出同然で日本を離れ、海外に渡ったときの思いが原点です。

親戚を含めて家族全員が医者という、特殊な家庭環境で育ちました。生まれながらにして「将来は医者になる」と決まっていて、意思を持つことは許されませんでした。「なぜ、人生を自分の意思で決めてはいけないのか」。置かれた環境下で生きることが苦しく、小学校の頃から不眠症に悩まされました。

中学生のときに親と決別し、祖父母のお金でイギリスに渡りました。その後、ニュージーランドの高校に進学。夏休みにバックパックを背負って2カ月半、東南アジアをはじめ様々な国を回ったのが、途上国に関心を持つようになったきっかけです。同年代の子どもたちがゴミ拾いをして生計を立てている姿を見聞きし、途上国の人たちの役に立ちたいと強烈に思うようになりました。

人が生きていくのに最低限必要なのは、食と医療と教育。なかでも食の問題解決が先だと思い、東京大学大学院農学生命科学研究科で途上国支援に取り組みました。しかし共同創業者の長谷川嵩矩氏(現miup共同研究者)が医療AIやバイオインフォマティクスの研究者だったこともあり、それまで蓋をしていた医療の世界に足を踏み入れることになったのです。

日本を離れた当時の気持ちは、起業後もよく思い出します。自分を必要としてくれる場所を見つけた今は、あの頃描いた未来像を追っているという感覚です。ちなみに現在は親と和解し、実家に戻ると医療業界の今後について議論したりしています。ルーツは無視できないものです。

──酒匂さんが描く、わくわくする未来は?

世界中の人たちが、才能を活かしながら自己実現できる社会になればと思います。インターネットの普及により、教育や医療を安価で受けられる時代になってきました。マズローのいう生理的欲求や安全の欲求を満たしたうえで、皆が本来持っている才能をぶつけ合える社会のほうが楽しい。ITを使った医療サービスを通じて、その一翼を担っていければと思います。


さこう・まり◎高校時代から貧困問題に関心を抱き、東京大学大学院で途上国開発研究を行う。IT企業でインターンシップを経験したのがきっかけで起業を決意。外資系消費材メーカーで商品開発・マーケティングに携わったのち、2015年にmiupを設立。バングラデシュでITを使った医療関連事業を手がける。社員数は35人。2018年11月にBeyond Next Venturesから約1億円の資金調達を発表。第二回日経ソーシャルビジネスコンテスト大賞受賞。

構成=瀬戸久美子

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