ビジネス

2019.05.16

「迎合」ではなく「尊重」を。終身雇用崩壊後の日本企業のあるべき姿とは?

(左)タレンティオ代表取締役兼CEOの佐野一機 (右)篠田真貴子



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例えばグーグルのような人気企業で、常に人材を募集しているところがありますね。応募者自体はたくさんいるそうなのですが、それでも求める人材は意外に見つからないのだとか。応募倍率が必ずしも質を担保するわけではない。これからは求める人材像を明確にしたうえで、適正な人材と効率的に会う方法を模索しなければなりません。

佐野:その通りです。HRにとって採用は重要ですが、それはあくまで一部分。応募倍率や採用数はHRの中で数少ない客観的な指標なので目を奪われがちですが、それが最終的な目標ではありません。データが可視化される時代だからこそ、ビジョンや事業戦略に対する理解といった数値化しづらい要素がより重要になっています。

極論を言えば、自社のビジョンに沿ったメンバーを集めてイメージした事業や組織運営ができれば、そうした数字は一切問題にならないですよね。HR部門については、競合と比較する相対的な視点は持たなくても良いとすら思っています。

スタートアップの組織崩壊は、能力主義偏重の結果?

佐野:そもそもなぜ企業と従業員の関係性をアップデートしなければならなくなったのかというと、高度経済成長期やバブル期の成長を日本が維持できず、どんどん失速しているからです。僕は就職氷河期に社会人となったので実感がわかない部分もありますが、終身雇用をはじめとした企業側が提供してきた恩恵が維持できなくなってきた。

篠田:私はバブル時代に新卒として採用されました。終身雇用が疑いのない事実だった最後の好況と、その後のバブル崩壊と社会の変化を体感してきた世代です。最初に勤めた日本長期信用銀行(現:新生銀行)は約4年で辞めたのですが、その後しばらくして経営破綻してしまいました。

もちろんいまでもそうした会社はありますが、当時は人事の発令が毎月のようにあり、いつでも遠隔地に異動になる可能性がありました。だいたい1週間で引き継ぎを終えて赴任する。そのかわり、引越し先の住まいは全部用意されていた。みんなが会社の寮や社宅に住むので、先輩と自分の部屋の間取りが同じなのが当たり前でした。日系大企業が中途採用するなんて、ほとんど聞いたことがなかったですし、まして、まとまった早期退職勧告なんて考えられませんでした。今とは隔世の感がありますね。

佐野:たった20年で、ここまで状況が大きく変わってしまうのは改めて衝撃ですね。とはいえ、僕は「終身雇用」を前提にした従来の日本モデルが必ずしも悪いとは思っていません。
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構成=野口直希 写真=小田駿一

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