一方、これらの富豪たちによる寄付は、1年前より減少していた。資産の1%以上を寄付した人は、前回の番付では86人だったものの、今回は72人だった。1000人中、わずか14人に1人となる計算だ。
こうしたトレンドに反し、資産の半分以上を寄付して「寄付額が多い富豪ランキング」の1位になったのは、投資家のジョナサン・ラファ―だった。およそ3億2000万ポンドを寄付していた。
「不要な注目」を避けたい
慈善家と呼ばれる人にもなり得るこれら富豪たちの多くは、「寄付への反発」が強まっていることを懸念し、行動を起こせなくなっている。
火災に遭ったパリのノートルダム大聖堂の再建には、フランスの富豪から巨額の寄付金が集まった。だが、メディアは彼らの善意を批判しただけだった。
「黄色いベスト」運動の参加者たちも寄付に反発しており、富豪は社会的プロジェクトにより多くを拠出するべきだと要求している。さらに、野党議員らも活動家たちの主張に同調。政府は富裕層への課税を強化し、より公平に富を分配できるようにすべきとの考えを示している。
野党党首が寄付に影響
英国でも同様に、野党・労働党のジェレミー・コービン党首が富裕層の納税に関する透明性の向上を訴えている。番付の発表を受けてコービンは、次のようにツイートした。
「…番付に入った人たちは全員、それぞれの納税額と、どの税務署で納付手続きを行っているかを公表するべきだ」
慈善活動を支援する英ビーコン・ラボレイティブの創設者の一人、キャス・ドービーは、富豪たちの一部に寄付を思いとどまらせているのは、まさに課税が強化されることへの恐怖だと指摘している。
「課税の問題は大きな論争を呼んでおり、環境はより一層、敵対的なものになっている。彼ら(富裕層)への課税がますます強化されるのなら、寄付額は減少することになるだろう」
「不確実性が高まるときには、人は防備を固めるものだ。そのため寄付も減る」
英ファウンダーズ・プレッジの共同創業者であるデービッド・ゴールドバーグ最高経営責任者(CEO)もまた、「…富豪たちに資産を守ろうとさせているのは、経済の不安定性と不確実性だと考えられる」と述べている。
ゴールドバーグによると、より多くの寄付を募るために重要なのは、教育だ。同社に協力する人たちは多くが、社会分野は複雑で不透明だとみており、そのため戦略的に、証拠に基づいた方法で寄付を行うことが難しいと考えているという。
そのため同社は、寄付を検討している人たちに調査結果やデータを提供し、「最もインパクトが大きい寄付の機会」の特定を支援している。
そして、ドービーによれば、明瞭さを求めているのは、寄付をする人たちだけではない。多くの人たちが、富の不平等は富裕層が引き起こした問題だと誤解している。問題は、これに関する「健全な議論がなされていない」ことだ。