39歳で芸能界に転身して以来、どんなに忙しくても、毎日1時間のフィジカルトレーニングを欠かさず、さらに知識を増やすための調べものに1時間、新しい技術の習得にもう1時間と、計3時間を自分磨きに費やす生活を7年も続けてきた。おまけに睡眠時間はたった45分で、『ソクラテスの弁明』が愛読書――。
まるで都市伝説のようにストイックで、誰にも真似できない生き方に思えるが、本人は「自分にはスペシャリティがない」と語る。そんな彼がたどり着いた、専門家でなくても選ばれる特別な人になる方法「スーパーゼネラリスト戦略」について聞いた。
スペシャリストにならなくても勝てる方法がある
毎日3時間は自分の能力を鍛えるために使うと決めています。フィジカルトレーニングに1時間、新しい知識の学びに1時間、そして、新しい技術を習得する練習に1時間。たとえどんなに疲れていても、夜遅くなってしまったとしても、必ずやる。でも「やらなければ」とストイックに自分を追い込むというより、自分に「プレゼント」するような気持ちで、楽しみながらやっています。
この日課を始めたのは、芸能界を目指した30歳のころ。最初は、テレビに出るためにはどんな能力を磨けばいいかを徹底的に研究することから始めました。テレビ欄を見て番組のジャンルをカウントし、どんなタレントが求められているのか、あの番組に出るためにはどんなトークができればいいのかを分析していったのです。
芸能界は超一流のスペシャリストたちがしのぎを削る場所。人気者たちは、演技やお笑い、音楽など、何かしらの一芸に秀でたプロばかり。何の専門分野も持たず、30歳から芸能の道へ進んだ自分が芸能界で生き残り、彼らと同じ画面に収まっても失礼がないようにするためには、「選ばれる要素をたくさん持っておく」ことしかない。総合点で勝負する。考え抜いた結果、もうこれが唯一の答えだと確信しました。
芸能界でタレントとして仕事をすることは、人様に自分の経験や知識、技術を見ていただくということ。すなわち「削る」作業です。自分をどんどん新しく更新していかないと、すぐに飽きられてしまうし、僕よりも能力が優れている若いスターやスペシャリストたちが次々出てくるので、毎日削れた分以上、手に入れるしかありません。
彼らが専門家としての知識を狭く高く積み上げているのだとしたら、その高さ以上横に幅広く、彼らに負けないくらい語れるものを増やしていく。ただのゼネラリストではなく、「超」がつく「スーパーゼネラリスト」であり続けることこそが、僕が芸能界で求められ続けるための戦略でした。
ロジカルは鍛えられる。「トークセンス」の正体は徹底的な準備に過ぎない
新しい知識を調べる1時間の最後には、「アウトプット」も必ずセットでやっています。自らトーク番組の司会者になりきって、自分に話を振り、それに答える。落語のように一人二役でする自主トレです。
単なる知識を詰め込むだけだと、人は簡単に忘れてしまうんですよね。でも「エピソード」として楽しく話すと、忘れにくくなるし、すぐに使えるネタになる。武井壮というタレントに対してロジカルなイメージを持ってくださる方も多いのですが、僕が司会者の振りにすぐに反応したり、あまり言い淀むことがなかったりするのは、こうして常にアウトプットの練習をしているから。トークに関しては、一切「瞬発力」で勝負していません。スラスラ話せているとしたら、その準備の賜物です。大体の質問はもう、僕自身が僕に投げかけて答えてきた質問ばかりなんです。