ビジネス

2019.05.15

ショップ運営の「わからない」をなくす。福岡発のスタートアップが個人ECの可能性を引き上げる

Pear代表取締役CEO 島井尚輝




サイトの改良や商品管理、マーケティングなど、EC運営のためにこなさなければならない業務は多岐にわたる。オムニコアでは最優先にこなすべきタスクを提示することで、少人数でも確実に課題を解決できるようにするという。

また、Pearはこれまで属人性が高かったコンサルティング業の更新も目指しているという。プロフェッショナルが顧客とともに施策を実行してレポートを作成するのが一般的だったコンサルは運用費用が高く、個人ECでの導入は難しかった。

「プロフェッショナルが担当するコンサルは費用が非常に高い。そもそも個人ECが増えるこれからの時代に全てのショップを人間が担当するのは不可能でしょう。一方で、マーケティングツールは入り口となる導入費用がかさむので、こちらも現状では個人ショップにとっては敷居が高い。

オムニコアは現時点で月額制を採用しており、すでにある程度の売り上げがあるショップをメインターゲットにしていますが、いずれは固定費ゼロの成果報酬制に切り替えるつもりです。導入コストをゼロにすることで、まだ売り上げがない開設直後のショップ運営者でも安心して売り上げを伸ばせる仕組みをつくりたいですね」

福岡の課題は、大きな視座を持つ存在を増やすこと

2017年に福岡で設立されたPearは、これまで九州のシードベンチャーに投資するF Venturesや独立系ベンチャーキャピタルのiSGSインベストメントワークスなどから約1億円を調達している。

2012年に「スタートアップ都市」を宣言し、官民一体で積極的なスタートアップ支援を進める福岡だが、「正直言えば、創業場所はどこでもいいと思っていました(笑)」と島井。しかし、結果的には福岡のスタートアップエコシステムには満足しているという。

「ヒト・モノ・カネそれぞれの領域で順調なので、起業する場所として福岡は自信を持ってオススメできます。特にありがたいのは積極的にピッチイベントが開催される点。外部投資家のほとんどは、これをきっかけに連絡をいただきました」

会社経営にあたっての不満点はないものの、それでも東京に比べると先輩起業家と気軽に話す機会は少ないことはデメリットだと島井。例えば、彼にとって大きく影響を与えたのは、孫正義の弟でシリアルアントレプレナーの孫泰藏のアドバイスだったという。

「泰藏さんはよく福岡に顔を出してくれるのですが、Pearの事業計画を見て『数十億程度の規模を目指しても、社会を変えることはできないよ。それでいいの?』と言ってくださったんです。ここまで視座の高いアドバイスをくれたのは彼が初めてで、より大きなビジネスモデルを目指す決意が固まりました。

福岡にも先輩起業家はいますが、その多くは受託開発で堅実に事業を伸ばしてきた人たち。リスクを取りながら高速でビジネスを成長させてきた投資家や先輩起業家と気軽に飲みに行ける東京を羨ましく思うことはありますね」

福岡でも創業直後のスタートアップを対象にしたセミナーなどは数多く開かれているが、そのメインはあくまで登記手続きなどのハウツーがメインだ。「その意味ではハングリー精神を高める仕組みは必要かもしれませんね」と島井。

「スタートアップとして事業を伸ばすためには知識面だけでなく、リスクを取りながら高速でビジネスを成長させてきた人でなければわからないことも少なくありません。Pearも小さくまとまらずにどんどんスケールしていきたいですね」

文=野口直希 写真=小田駿一

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