フランス人女優が撮ったアメリカ裏社会 映画「ガルヴェストン」

(c)2018 EMERALD SHORES LLC–ALL RIGHTS RESERVED


監督は、フランスを代表する国際派女優であるメラニー・ローラン。「イングロリアス・バスターズ」や「人生はビギナーズ」、「オーケストラ!」などの作品に出演する一方で、映画監督としても活躍しており、「TOMORROW パーマネントライフを探して」ではセザール賞のドキュメンタリー賞を受賞している。

原作は、ニック・ピソラッドが執筆したクライムノベル「逃亡のガルヴェストン」。ピソラッドは、映画「マグニフィセント・セブン」やドラマシリーズ「True Detective」の脚本家としても知られるが、2010年に発表したこの小説は、アメリカ探偵作家クラブ賞新人賞の候補にも挙げられ、高い評価を受けた。


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原作者が脚本から降りた理由

「ストーリー自体はきわめてアメリカ的であるにもかかわらず、ヨーロッパの監督で撮りたいというオファーに惹かれて、引き受けました。アメリカ映画をフランス流のやり方で撮る、2つの文化が融合する試みは、とても素敵なアイデアだと思いました」

メラニー・ロラン監督のこの言葉通り、映画では、逃避行を続けるロイとロッキーの絶望と希望を、それぞれ明暗をくっきりと分ける映像で切り取り、アメリカ映画らしからぬ「湿度」を感じさせる作品にもなっている。

主人公が殺人を犯す「影」の部分はどこまでも暗く、ヒロインが海辺で戯れる「光」の部分は鮮やかに眩しい。

また、主人公のロイが瀕死の重傷を負い、組織の隠れ家から逃げ出すシーンでは、4分半近いワンショット(1箇所だけ継ないでいるかもしれない)で描かれており、ロラン監督の映像表現のスキルの高さに驚かされる。もはや女優の余技の領域などはるかに超えている。

原作の小説は、20年の時を経た過去と現在が交互に描かれるかたちで構成されており、現在の部分の、物語を読者をミスリードする叙述が、独特のサスペンスを生んでいる。一方、映画では、時系列的に物語が語られていき、終盤に思いがけないサプライズが控えている。

映画化にあたって、当初は、脚本家でもある原作者のピソラッドが参加。自らの小説の脚色に当たったが、ロラン監督との考え方の違いから、自分の名前がクレジットされるのを拒否したという。そのため脚本家の名前は実在しない人物、ジム・ハメットという名前になっている。


メラニー・ロラン監督(左)と主演女優のエル・ファニング(Getty Images)

筆者が考えるに、過去と現在が交互に描かれる原作の構成(これはこの小説の「肝」でもある)を、ロラン監督がすんなりとした時間の流れに変更したことが、原作者が作品から降りた理由なのではないかと推察する。とはいえ、結果としてロラン監督の変更は、優れたロードムービーとして、またラブロマンスに行き着く快作として、作品の魅力を高めているように思える。

もちろん、風光明媚なガルベストンの海辺の光景や、冒頭でも触れたハリーケーン(2008年のハリケーン・アイク)なども劇中に採り入れられており、映画「ガルヴェストン」は、アメリカ人の記憶に残るこの地を知るうえでも、格好の興味深い作品ともなっている。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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