年齢差別の街サンフランシスコ 「モダン・エルダー」が救世主?

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サンフランシスコは、イノベーションと斬新なアイディアを次々と生み出す土地、アメリカの中でもプログレッシブで多様性に寛容と言われていますが、実は「年齢差別が激しい街」でもあります。世界中から有望な人材が集まるこの街はいま、「リッチな若者が越して来て、混みあっている」と言われています。

サンフランシスコ在住者の平均所得は、約9万6000ドル(約1050万円、2017年時点)で、5年前の約7万4000ドルに比べ、約30%増えました。額としてはアメリカ全都市の平均に比べ、4万ドルも多くなります。また、その5年間で、サンフランシスコ市の人口は0.3%(約6万人)増加。20〜34歳のミレニアル世代に限って見ると、倍の0.6%増えています。

市内でも、とくにSOMA地区は、テクノロジー系のスタートアップ企業やコーワーキングスペースが密集し、歩いていても出会うのは若者ばかり。高齢者の姿を見かけることが稀になっています。

ミレニアル世代が思う存分働き、彼らが働きながら住みやすい環境づくりのためのサービス(ウーバーなどの配車サービスや家事代行アプリなど)がつくられ、さらにそのサービスを提供する企業で働く若者が移り住む。サンフランシスコでは、こうした若者による若者のための生産循環が勢いを得ています(最近では、あまりにも高騰する家賃や就職競争の激化により、州外に移る若者も出てきていますが)。

若者びいきのテクノロジー業界

スタートアップ企業は、社員の平均年齢が20代後半であることは珍しくなく、サンフランシスコに住む若者の多くが働くシリコンバレーの巨大テクノロジー企業でも、若者をひいきして雇用する傾向があります。2016年の調査では、シリコンバレーのトップ18大企業のうち7社が、中央値の従業員年齢が30歳以下であることを明らかにしました。

また、2017年には、アマゾン、フェイスブック、T-モバイルをはじめとする国内大手数社が、自社求人広告のターゲットから故意に55歳以上の労働者を除外したとして労働組合から訴えられました。訴訟の対象となった各社は、求人広告の年齢設定を解除することで対応しましたが、人材サービスIndeed社の調査によれば、テック企業勤務者の43%は、年をとることによって職を失うのではないかと懸念しており、18%が常に不安を感じている状態だといいます。

なかでも、ソフトウェアエンジニアの職種領域では、年齢とスキルが比例しないことが多く、若者偏重型の人事が顕著だといわれています。この職種には、20代前半〜後半の人間が多く、30代になると年配扱い。年齢コンプレックスを持つ30〜40代の男性エンジニアが、若く見られるためにボトックス注射(顔のシワを改善する治療)をするというのはよくある話です。

また、経営陣や投資家も、若者を好む傾向にあります。大規模スタートアップの起業家を対象とした調査では、その37%が、投資家がジェンダーよりも年齢を重要視していると回答。その年齢差別は「36歳」が境界になると多くが答えています。

30代半ばで「もう年だ」と感じてしまうテクノロジー業界。「人生100年時代」と言われる中で、最先端業界の職場では高年労働者の活躍の場が減っているのが現実です。ビル・ゲイツもすすめるキャリアの築き方として、さまざまな経験から得る知を組み合わせる「エキスパート・ゼネラリスト」があり、私自身支持しているのですが、年齢差別はキャリア構築において大きな障害となっていくでしょう。
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文=橋本智恵

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