年齢差別の街サンフランシスコ 「モダン・エルダー」が救世主?

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アメリカの40歳以上の社員は、1967年に制定されたThe Age Discrimination in Employment Act(ADEA)によって、雇用、昇進、解雇など人事関連の機会で、企業により年齢差別的行為をされることが禁止されています。しかし、ここにもグレーゾーンは存在し、法律に触れないような間接的な差別が横行しています。

テック業界で働く40歳以上は、その同僚や雇用主から、新しいスキルを学ぶ意欲がなく時代遅れであり、スピーディでパワフルなカルチャーについていけない、などネガティブでステレオタイプな見方をされがちです。

とくにスタートアップの雇用主は、少人数の仲間でビジョンを共有して事業を立ち上げることが多く、採用する人材は、フィーリングが合うか、現社員が一緒に働きたいと思うか、などの主観的な判断で採用する傾向にあります。

しかし、このような傾向は、組織づくりにおいて未熟だと指摘する専門家もいます。自然に自分たちと類似した特徴を持った人や近い年齢層を過剰評価するという心理バイアスが働き、本来の事業拡大という目的から逸れた社員の採用につながるからです。年齢差別などのバイアスが蔓延する組織は、社員たちに職の不安を助長し、リスクを冒す意欲を奪い、イノベーションが生まれにくい環境をつくることになります。

また、若い社員が好まれて採用される背景には、エネルギッシュなカルチャーという建前のもと、リーズナブルな給与で長時間働いてくれる20代を雇いたいという企業側の思惑も見逃せません。

エアビーCEOと「21歳年上」のメンター

個人主義が蔓延するアメリカ社会では、年齢差別の問題は他分野(ジェンダーや人種)よりも改善が進まず、認知度も欧州に比べ低いといわれます。しかし、年齢差別は誰もがいずれ対象となりうる差別です。今後アメリカでも労働人口の高齢化が進むなか(2020年までにアメリカ国内の労働人口の25%は55歳以上の高年齢労働者となる見込み)、全業界の20年後を現す縮図といわれるテクノロジー業界で、この矛盾を放っておくのは、危険な現象だと言えます。

そんななか、サンフランシスコでは、年齢差別にチャレンジする果敢な人物が現れました。チップ・コンリー(Chip Conley)氏です。


チップ・コンリー(Getty Images)

コンリー氏は、2013年に50代半ばでエアービーアンドビーにシニアアドバイザーとして参画。21歳年下のCEO(ブライアン・チェスキー)のメンターをしています。それまで彼は、全米展開するブティックホテルの起業家として活躍し、自身の成功や失敗体験を元にビジネス書の出版もしていました。

エアービーアンドビー入社当初は、Googleドキュメントすら使ったことがなかったというコンリー氏ですが、DQ(デジタル知能)不足は、これまで培ったEQ(心の知能)で埋め合わせたと、最新の自著「Wisdom at Work」で語っています。彼は、長年ホテル業界で培ったホスピタリティの知恵をテクノロジーの文脈で活かすべく、エアービーアンドビーに貢献したのです。
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文=橋本智恵

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