矢本は前職のメルカリで取得した育休中に、献立を考え、料理をすることがいかに大変かということに気づいた。そこで毎日の家事の負担を減らすことはできないかと開発に至ったのが、献立をユーザーに提案するアプリ「タベリー」だ。
栄養バランスのとれた献立を提案し、無駄な食材のない買い物リストを作成。5月14日からは、そこにある食材をまとめてオンラインスーパーにオーダーできるようになる。
レシピアプリや食材通販のサービスは多く存在するが、献立の提案から具材のオーダーまでを完結させるアプリは「タベリー」が世界初となる。
同時に、タベリーを運営する「10X」は「DCM Ventures」を中心とする投資家から総額2.5億円の資金調達を発表する。
新たなサービスが形になるまでの経緯と今後の展望、日本の食品市場におけるポテンシャルを聞いた。
始まりは2011年の東日本大震災だった。東北大学大学院生だった矢本は元々、学生時代に夢中になっていたアメリカンフットボールのコーチを目指していた。
しかし、震災を目の当たりにして、自分の命も明日終わってしまう可能性があること、多くの人が困っているのに何もできない自分の非力さを痛感した。そんな時、孫正義が被災地へ100億円寄付することを発表。矢本の妻の内定先だった大手食品メーカーは、被災者へ商品を無償で提供した。
限りある人生の中で、自分も多くの人の役に立ちたいと起業家になることを決意した矢本は、所属する組織や人生の転機ごとに課題を見つけ、解決し続けた。
大学院卒業後は、経営の基本を学ぶため丸紅に入社。カザフスタンでエネルギー事業に携わるが、大企業で自分の出来ることの小ささを実感し、わずか1年で退職した。
自分を育ててくれた土地に直接恩返しができる場所はないかと見つけたのが、復興支援を目的とした一般社団法人RCFだ。事務局メンバーとして活動を続けていく中で、ポケモンGOで知られる「ナイアンティック」のVP of Product 河合 敬一と出会った。
当時、Googleマップのプロダクトマネージャーをしていた河合の下で担当したのが、福島第一原発付近の人が入ることのできない土地をグーグルストリートビューで撮影して、全世界に公開するというもの。システムの実装から社内調整、国や県庁など対外との調整など、全行程に携わる河合から、プロジェクトをゼロから作り、形にすることを学んだ。
しかし2014年6月、子供が生まれたタイミングで、自分を育てた土地への思いより、目の前の愛する存在を幸せにしたいという気持ちが大きくなっていった。
可愛い子供服を買いたくても外出する時間もないという妻の悩みを解決するため、子供服とベビー服モバイルEC「スマービー」の立ち上げに携わった。
同サービスを展開していく中で今度は「もっと世の中にインパクトを与えるプロダクトをゼロから作りたい」と思いからメルカリに転職。そこで30日間の育児休暇を取ったとき、矢本は「主夫」ならではの視点を身に付けた。