ビジネス

2019.05.15

電線からキャビアの養殖まで 今を生き抜く超「オタク気質」とは

金子コード代表取締役社長 金子智樹氏

“いま”を生き抜く超オタク気質
電線メーカーから、医療機器、果てはキャビアの養殖・製造へ──。
鮮やかな業態転換で成長を続ける金子コードの金子智樹社長に多方面にわたる趣味やコレクション、人脈づくりの肝を聞いた。


弊社は1932(昭和7)年に祖父が創業。日本電信電話公社(現NTT)に電線を納入する企業として始まりましたが、現在ではロボットケーブル、センサーケーブルなど各種ケーブルの製造販売以外に、医療用カテーテル事業、さらにキャビアの養殖・製造や人工筋肉の開発も手がけています。世界情勢の変化を見極め、業態転換を恐れずに繰り返したところ、おかげさまでリーマン・ショック以降も順調に成長し続けております。

しかしながら、「電線の会社がなぜキャビアの養殖・製造を!?」と驚かれることも少なくありません(笑)。私は非常にオタク気質で、例えば趣味の「ビルボードHOT100」のLP収集は大学時代から始まり、いまでは数千枚を所有しています。曲を聴くだけではありません。チャートを徹底的に研究し、誰がどういう経緯で書いた曲なのか、そのミュージシャンの前後の人生はどのようなものか、すべてのエピソードを勉強して聴くのが好きなのです。いまでも最新チャートは聴き続けていますし、海外出張先では空いた時間にビルボードについての資料本やLPを探します。

同様に、美術館で素晴らしい絵画に出合えば、自ら描く。おいしい食事をしたら、家で再現する。ワインも大好きで、ヴィンテージのコレクションだけでは飽き足らず、ソムリエの資格を取ってしまいました。

キャビアの養殖・製造につながったのは、つまりはワイン好きが高じてです。調べてみると、国内流通するキャビアの90%は輸入もので、長期保存のために塩を多く加え、保存料を添加し、熱処理をし、冷凍状態で流通している。そのため本来は透明感のあるグレーやモスグリーンの見た目が真っ黒に変色するのです。それで弊社では2014年からチョウザメの養殖を開始し、熱処理をせず、保存料を一切使用せず、最低限の塩しかふらないキャビアを製造・販売しています。

そもそも経営者は24時間365日、常にアンテナを張り続けてなければ、この世界の変化のスピードに対応できません。またその際、目についた情報をただ掴むだけでなく、興味をもったものについては徹底的に深く調べることが肝心です。いわば、オタク気質は”いま”という時代を生き抜くための非常に豊かな戦略になりうるのではないでしょうか。

私は、27歳で結婚し、できたばかりのシンガポールの現地法人へと父に投げ込まれました(笑)。そのときに覚悟をもって決めたことがあります。

1つ目は、誘われたら絶対に行くこと。2つ目は、陰口を絶対に言わないこと。3つ目は、見返りを期待せずに困っている人──何かを探しているとか、誰それを紹介してほしいとか──を助けること。自分に得があろうがなかろうが関係なくです。それを10年間続けていたら、信頼と人脈を得ました。20年続けたら、人脈が事業にプラスに働くように。そしていま30年に向かい、自分のやりたいことが叶う環境が整ってきました。この3つはいつからでも、誰でも、できることです。若いうちに、ぜひ心がけてみてください。


かねこ・ともき◎1967年、東京都生まれ。青山学院大学を卒業後、90年に金子コードに入社。94年、シンガポール現地法人の初代社長に就任し、グローバル営業・経営に従事。2005年より現職。著書に『社長ほど楽しい仕事はない』がある。

構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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