3. 行動指針となる価値観を共有する
「デザインを通じて、社会にポジティブなインパクトを生み出す」こと。IDEOは、これを存在意義として掲げている。そして、社員がこれを自分なりに解釈し、それぞれの興味や情熱に合った方法で追求することを奨励している。
たとえば、今年8月にCEOに就任することが発表されたサンディ・スパイカーは、過去の様々なチャレンジを通じて、教育にインパクトを与えることに使命と情熱を感じるようになった。彼女はペルーの教育システムに多大な影響を与えたイノヴァ・スクールの立ち上げを成功させ、IDEOの教育事業の発展に貢献している。
IDEOでは、肩書きによって人の役割を固定しない。そのため、各人がもっとも自分らしく活躍できる道を追求する自由があり、何年経っても新たなチャレンジに挑み、成長し続けられる環境がある。
アジア全体のシニア人事ディレクターを務めるマイク・シーは、自身がIDEOへの入社を決めた理由について、次のように話した。
「採用プロセスの最終面接で、『この会社で成功する人の特徴は何ですか』と聞いたんだ。私は、きっとIDEOの答えは、”並外れた創造力"や”戦略的思考"などだろうと期待していた。ところが、面接官はしばらく考えてから、こう言ったんだ。『謙虚さね』と」
彼はその言葉に衝撃を受けながらも、理由を聞いて納得したという。面接官はこう言ったそうだ。「IDEOは、前例のない課題をさまざまなアプローチで解決することが求められるため、クライアントとともに常に進化し、新たなことを学び続けなければならない。だからここでは、根っから謙虚で、好奇心旺盛な人しか、成果を出せないのだ」と。
パーティーのゲストへのお土産作りでも創造力を発揮する社員たち。
IDEOでは、このような価値観が全員に共有され、クリエイティブな組織文化の礎となっている。何をやったかより、どうやったか。つまり、達成した数字よりも、「困難な状況でも可能性に目を向けていたか」「周りの成功を助けたか」「個人よりチームの力を信じたか」といった、組織の価値観に沿った行動をとっていたかどうかが問われる。
IDEOが、組織の存在意義に個人が解釈する余白を設けたり、数字よりも人の行動を価値観として重視する理由は、「人間中心デザイン」を掲げる会社であるがゆえかもしれない。社員を一個人として尊重し、性善説をベースに社員を受け入れる。皆が「働きたい」と思う組織作りは、社員を信じることから始まるのではないだろうか。