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2019.05.17

年間1万人が応募するIDEOが「余白」を大切にする理由

IDEO Tokyoに集うアジアのリーダーシップチーム。

今年創業40周年を迎えたデザインファームのIDEOは、日本を含む世界9拠点で展開し、現在社員数は700余名。様々な職種において通年で採用を行なっているが、応募者の総数は年間約1万人に上る。

そんなクリエイティブ集団が、採用や組織づくりで大切にしていることは何か。3つの考え方を軸に、その秘密を紹介したい。

1. 組織に文化を「与える」人を見つける

一般的な人材採用の選考基準の一つとして、「カルチャー・フィット(Culture Fit)」という項目をよく見かけるが、IDEOが重視するのは、「カルチャー・アッド(Culture Add)」だ。その人が組織文化に合うかどうかではなく、組織に新たな文化を加えて(与えて)くれるかどうかを重視する。なぜなら、新たな視点、考え方が加わるほど、クリエイティブな組織として進化し続けられるからだ。

こうした人材を探すとき、IDEOは個々の「ストーリー」に着目する。レジュメからわかるのは、あくまでその人の「仕事バージョン」だ。もちろん並外れたスキルや実績も重要だが、それ以上に、どんな人生を生きてきて、何に興味や情熱を感じるのか、過去の数々の経験にどんな意味を見出しているのか……。それを自らの言葉でストーリーテリングしてもらうことで、相手の「人としての豊かさ」を見る。

実際、IDEO Tokyoにも様々なストーリーを持つ多様なメンバーが在籍している。たとえば今年デザイン・リサーチャーとして入社したマルコ(香港)は、米大手経済メディアの記者だった。しかしアフリカでテロの現場に居合わせた壮絶な経験から、残りの人生は共感を大切にし、人のために手を動かす仕事がしたいと、セラピストの資格も取得した。

インタラクション・デザイナーのアメデオ(イタリア)は、元々サックス奏者としてジャズクラブで活躍しながら学校で音楽を教えていたが、余暇に数学にのめり込んだことからコーディング、デザインの才能が開花し、今はアプリやウェブサイトのデザインを手がける。

また、外資系戦略コンサルティング会社出身のビジネス・デザイナー、ケイ(日本)は、米ビジネススクールにてMBA取得後に入社。食への関心が高く、今は本業の傍ら、カレーのスタートアップも手がけている。


IDEO Tokyoには現在、9カ国出身の33名のデザイナーが在籍する。

紹介したのはほんの一部だが、こうしたバラエティに富んだメンバーたちが共に一つの課題に取り組むことで、アイデアに多様な視点とボリュームがもたらされていく。

日本では、「出る杭は打たれる」と言われがちだ。しかしIDEOでは、全員が「出る杭」であり、その杭一つ一つをさらに引っ張り上げることで、互いにインスピレーションを与え、より豊かな組織文化を醸成している。
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文=IDEO Tokyo

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