World Restaurant Awards審査員


その期待を上回る何かというのは、結局、「自分好みに」パーソナライズされた「リアルな体験」そのものだという。これからは、「スモール・ラグジュアリーの時代ではないか」とプリ氏は言う。小規模な場所ならば、親近感や個人としての体験を得やすく、「写真を見た」という視覚的な記憶ではなく、五感を駆使した「リアルな」体験との親和性が高いと。

とはいえ、シックス・センス・ウルワツは、比較的大きい、103のヴィラを持つリゾートだ。どのようにリアルな体験を生み出そうと考えているのか。プリ氏が導き出した答えは、「外のカルチャーを、積極的にリゾート内に組み込んでいくこと」なのだという。

「いまはリゾートの外にお客様を連れて行き、ケチャック(バリ島の伝統舞踊)のダンスの見学を行っていますが、逆に、定期的にケチャックダンスのショーをリゾート内で行う、あるいはリゾート内の農園を拡充するなどして、バリ島ならではの文化をこのリゾート内に入れていこうと考えています」

体験はSNSの写真では得られない。だからこそ、人々は、五感を駆使した、自分だけの思い出の旅の「探求」に乗り出すのかもしれない。プリ氏は、リゾートの中に、小さな村のようなリアルなコミュニティをつくることで、親近感のある、特別な体験を生み出そうとしているのだ。

シャンパンやキャビアではない贅沢

また、プリ氏が強調するのが、「ラグジュアリーの多様化」だ。

「これまでは、ラグジュアリーなボートトリップといえば、豪華なヨットの上でシャンパンやキャビアを並べて楽しむスタイルでしたが、いまはその土地の伝統的な船に乗り、近くの島へと出かけ、そこで採ったココナッツを割ってココナッツウォーターを飲むというような体験も、新たなラグジュアリーと捉えられるようになっています」

贅沢といえばシャンパンとキャビアというのは、確かにラグジュアリーのひとつの形ではあるが、そうした型にはまらないラグジュアリーが存在するようになってきているということだ。価値観は1人1人の心の中にある。そして、今の時代は、画一的な他人の価値観に沿って生きるのではなく、自分だけの価値観を持って生きる時代、ということが言えるのかもしれない。

朝食のラインナップ然り。グルテンフリー、乳製品フリーのチョイスはあるが、かといって、バターたっぷりのクロワッサンにオムレツという朝食が食べられないというわけではない。リゾートでだけヴィーガン、ベジタリアンになるという、「リゾートビーガン・ベジタリアン」の人たちも増えてきている。人々の気分と好みに合わせた、多様な受け皿があることが、贅沢となったのだ。


「クリフ・バー」からの夕景。カクテルのみならず、コンブチャなどのヘルシードリンクも揃っている

いま、人々は、インターネットのおかげで、たくさんの情報にアクセスできるようになった。だからこそ、画一的な「与えられた」価値観や美意識ではなく、たくさんの情報のなかから「自分の好み」の美をとりだし、気分に合わせてそれを楽しむことが、この時代のラグジュアリーではないか。

自分らしい選択ができる、心の自由。それは、何よりもの贅沢かもしれない。それを可能にしているのが、「訪れたときよりも健康になる」というリゾートが内包している、「ラグジュアリーの本質」なのではないだろうか。

文・写真=仲山今日子

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