訪れたときよりも健康になる。バリ島のリゾートが提案する「真のラグジュアリー」

バリ島の南端にある「シックス・センシズ・ウルワツ」。日系料理レストラン「クルド」からの眺め


このリゾートで特筆すべきは、「サステイナビリティ・マネージャー」の存在だ。その肩書を持つスマトラ島出身のジョアキム・ナババン氏が、シックス・センシズ・ウルワツのサステイナブルな取り組みを主導している。ジョアキム氏は、モルディブで海洋生物学者として働いていた経歴を持つが、対象を海から陸に変えて、いまは日々より良い農地づくりに取り組んでいる。

リゾートのある土地は、石灰岩質の砂の土壌のため、一般的に植物の生育に向いておらず、切った枝や、厨房から出るゴミなどを地元の土から抽出した酵素を使って1カ月ほどかけて分解し、コンポストにしている。湿度も気温も高い場所柄だけに、比較的早く土になるという。


「サステイナビリティ・マネージャー」のジョアキム・ナババン氏

農地づくりは去年の5月から始めたそうで、現在、トマトやナスなどを有機農法で育てている他、キノコ専用の栽培施設もある。今後は農場自体を拡大し、鶏小屋や養蜂施設もつくる予定だという。

都市部以外のシックス・センシズに必ずあるのが、水の浄化施設だ。シックス・センシズ・ウルワツの水は地下水で、フィルターを何度もかけて余剰なミネラル分などを取り除き、オリジナルの瓶に詰めていて、これはレストランでも、ホテルの部屋でも提供される。

サンセットが美しいバー「クリフ・バー」で提供される飲み物も、「ジャムウ」と呼ばれる、ターメリックを使った自家製のハーブウォーターをベースにするなど、なるべくリゾート内でつくられた、バリ島ならではの味を提供している。

サステイナブルは「私たちのDNA」

こういったコンセプトは、どのように生まれたのか。シックス・センシズ・ウルワツのジェネラル・マネージャーであるマニッシュ・プリ氏に話を聞いた。

プリ氏は、グループで働いて11年、グループのアジアにおけるフラッグシップでもある、タイの「シックス・センシズ・ヤオノイ」の立ち上げなど、新しいリゾートの建設やコンセプトづくりに深く関わってきた。

「いま、サステイナブルやゼロ廃棄が注目されていますが、流行は移り変わるものです。サステイナブルというのは、私たちシックス・センシズにとって新しい考えではなく、私たちのDNAと呼ぶべき柱となるコンセプトです」


シックス・センシズ・ウルワツのジェネラル・マネージャーであるマニッシュ・プリ氏

揺るぎない口調で話すプリ氏。シックス・センシズ・ウルワツの料理については、次のように語った。

「かつての食生活を振り返ると、健康的な植物原料の食事が中心の生活で、肉を食べるのが贅沢でした。それがファストフードなどの普及で、肉が過多な食生活が一般的になりました。いまの贅沢は、乳製品フリー、グルテンフリーなどの『選択肢があること』になりつつあります。ここで供している日系料理というのは、いま注目の料理スタイルですし、乳製品やグルテンなどを使わない料理も多い。私たちのコンセプトと重なると考えて導入しました」

お客様を驚かせるのが難しくなった

25年以上この仕事に携わっているというプリ氏だが、ホテル業界にはファッションと同じでサイクルがあると感じているともいう。

「例えば、数十年前はジャングルでのキャンプはラグジュアリーなものではありませんでしたが、いまはラグジュアリーと考えられています。しかし、それは新しいアイデアなのかというと、そうではない。例えば、昔は王侯貴族がジャングルでのキャンプを楽しんでいたわけです。それが、一般の人のレベルにまでやってきたという風に捉えています」

つまり、それが例えリアルな体験でないにしても、かつての王侯貴族さながらに、訪れる客の「目が」肥えてしまっているのだ。「王侯貴族の贅沢」がここまで一般化したのはなぜか。その理由の1つに、SNSの普及が挙げられるという。

「昔と違って、お客様を驚かせるのは難しくなりました。SNSのタイムラインには、驚くような美しい景色が溢れています。お客様は、ここにくる前にたくさんの情報に触れています」
次ページ > 写真という「視覚的な記憶」を超えていく

文・写真=仲山今日子

ForbesBrandVoice

人気記事