公共施設の老朽化を予測 町の財産を「見える化」した財政課職員

愛媛県砥部町の田中弘樹


資産台帳の整備を進めていくうちに、「アセットマネジメントが今後の自治体運営の生命線になる」と感じ始めた田中。そこで、現状をわかりやすく理解してもらうため、中長期財政計画とは異なる、3つのシナリオを用意した。

1つ目のシナリオは、今後、新しい事業を何も始めなかったらどうなるか、というシナリオ。2つ目は、「上限シナリオ」という、公共施設を耐用年数が来た時点で更新していくと仮定したシナリオだ。最後は、2つ目の上限シナリオでは財政が成り立たないため、公共施設の更新優先順位が低いものをどんどん諦めていき、なんとか予算が組める採算ラインをイメージした「順当シナリオ」だった。

1つ目や2つ目のシナリオは、現実的にはあり得ないものだが、田中はあえてこの3つのシナリオを示すことで、町の将来をくっきりと浮かび上がらせた。

「このままの税収では全ての公共施設を維持することはできないということを、数字で、はっきりと示すことができ、さらに上限シナリオと順当シナリオとの乖離幅が、行財政改革の幅であるということを示すことができました。これで、職員にはもちろん、首長、議会議員、住民にも伝えることができたのです。また、順当シナリオによる推計から、将来のバランスシートもつくりました。本当に必要な公共施設は必ず維持したい、そうすると、その足りないお金を捻出しなければいけない状況を、誰の目にも見えるようにしたのです。担当職員の頭の中にあるだけではいけないということです」

いくつもの「山」を超えられる対応を

40年スパンで見てみると、砥部町には、施設更新等でコストの負担が大きくなる2つの山の時期があった。15年ほど先にある1つ目の山を乗り切れば大丈夫かといえば、そうではなかった。その先20~40年後にやってくる2つ目の山を乗り切る体力を残しながら、今後15年間を過ごさねばならなかった。田中は数字やグラフを使い、そのことをわかりやすく伝えていった。

公共施設の老朽化が社会的な問題となり、自治体による資産管理の重要性が叫ばれるようになった昨今、この事態をいち早く想定し、対応を重ねていった田中の先を読む力。行政に関わる人だけでなく、多くのビジネスパーソンにとっても、学ぶべき姿勢だと言えるのではないだろうか。

連載:公務員イノベーター列伝
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文=加藤年紀

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