愛媛県砥部町では、公会計、とりわけ資産台帳の整備に他自治体より先んじて取り組んできた。この礎を築いたのが、同町の田中弘樹だ。総務省のワーキンググループの委員や、大学のシンポジウムでパネリストも務める、公会計のスペシャリストだ。
砥部町が「公会計先進自治体」になった理由
2006年に財政課に異動し、公会計の担当となった田中。当時の自治体の会計モデルは「総務省方式」が主流で、このモデルを用いて、「決算統計」という統計資料集から財務諸表を作成していた。しかし、07年になると、新たに登場した「改訂モデル」や「基準モデル」を採用する自治体が増加。砥部町は「改訂モデル」を採用した。
2つのモデルについて説明したい。「改訂モデル」とは、既に役所が単式簿記でつくっていた「決算統計」を組み替えればつくれるため、導入に掛かる費用が少なくてすむ。これに対し、「基準モデル」は、複式簿記化や固定資産台帳のデータ整備が必要で、システム改修などにコストが掛かる。
ただ、「改訂モデル」は単式簿記のため、資産の把握が難しいという側面もあった。実際、「改訂モデル」を選んだ多くの自治体で、資産の状況把握が遅れる事態となっていた。
砥部町の場合は、06年に田中が財政課に異動して以降、マイクロソフトのデータベースソフト「アクセス」を使って、資産台帳の整備を始めていた。当時、まだ公共施設の老朽化はほとんど話題にも上がっていなかった時期だ。
なぜ田中は、早い段階から資産台帳の整備に着手したのか。それは、老朽化の問題以前に、今後、施設や事業のマネジメントや優先順位を考えるうえでの資料とするため、施設や事業単位で切り分けた情報をつくっておく必要性があると考えたからだ。田中は当時を次のように振り返る。
「資産台帳を整備した後は、最初のうちは複式簿記の基準モデルへの移行も考えた時期がありました。しかし、それよりも改訂モデルのままでよいから、資産台帳を整備し、アセットマネジメントをもっと推進していかなければならないと感じました。基準モデル移行はとりあえず措いておいて、資産管理アセットマネジメントを一気に推し進めていく方向へと舵を切ることにしました」