米国は5月10日、中国からの輸入品およそ2000億ドル(約22兆円)相当にかかる関税を10%から25%に引き上げた。
「何が危機にさらされているのか、皆きちんと理解していないのだろう」
ワシントン州シアトル近郊で開かれたカーオーディオ機器の小規模メーカーの集まりに参加したアレックス・カメラは、そう語る。カメラは中国から電子部品を輸入し、パワーアンプなどを生産するオーディオ・コントロールの最高経営責任者(CEO)だ。
「トランプは、中国が関税を支払うと言っている。だが、払うのは彼らではない。私だ。(貨物を受け取る)港で、米国の企業が払っているのだ」
同社のような企業にできるのは、中国のサプライヤーと契約内容の見直しについて再交渉し、関税引き上げの影響を受けないようにすること程度だ。
今回の25%への関税率の引き上げは、米中の貿易交渉の流れを大幅に変えるものとなるだろう。長年にわたって共和党の主要な支持基盤とされてきた商工界が、「貿易戦争の激化に恐れをなしている」といっても言い過ぎではなさそうだ。カメラは関税率が10%になったことで、投資の一部を取りやめたという。
「25%の関税率は、わが社の投資と製品の価格設定に多大な影響を及ぼすだろう。関税(の引き上げ)を中国経済への攻撃だとみる人たちの考え方に、少々いら立ちを感じる。関税は、私のビジネスを成長させるための私自身の資金力に対する攻撃だ」
米PNCファイナンシャルのシニアエコノミスト、ビル・アダムスは、企業投資には今後、具体的な、そして予測不可能な影響が出てくるとの見方を示す。
「関税支持派は、それによって米国内での投資が増加すると主張してきた…だが、これまでのところ、そうした動きは見られていない」
単なる「課税」ではない
中国との貿易戦争は、単に米国の製造業の雇用を守る、あるいは貿易赤字を減らすためのものにはならない。もっと複雑なものだ。