シネマの女は最後に微笑む

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先のゴールデンウィークは改元があったため、あちこちで「令和」を冠した商品を目にした。中でも売れ行きの良さそうだったのが、お弁当だった。

4月25日あたりからコンビニやデパートを始め、なだ万や崎陽軒といった有名店も、お祝い気分と連休の行楽を当て込んで「令和」と銘打った豪華弁当を売り出していた。

非日常的な贅沢なお弁当もたまにはいいが、私たちにとって大切なのは日常のお弁当だ。新年度が始まって一カ月半、昼食代節約のため毎日弁当持参の新人サラリーマンも、やっと弁当作りに慣れて来た頃だろうか。

最近はキャラ弁、顔弁など、子供向きの凝りに凝った弁当が注目され、さまざまな工夫を掲載したレシピ本が出ている。だがあまり白熱すると、多忙な朝に弁当作りをしなければならないお母さん(お父さん)にとっては大変だ。見た目も大事だが、食事であるからには栄養と味がポイントとなる。

そして、家族のお弁当を作る唯一の喜びは、すっかり空になったお弁当箱と「美味しかった」の一言だろう。反応のないお弁当作りほど虚しいものはないはずだ。

『めぐり逢わせのお弁当』(リテーシュ・バトラ監督、2013)は、夫のために手間ひまかけて作った弁当が別の人の元に誤配された‥‥という小さな手違いから、一人の主婦が自分の生き方を見つめ直すまでを描いた佳作。原題はシンプルに『Dabba(英題:The Lunchbox)』。邦題の「めぐり逢わせ」は奇跡的な出逢いを含意している。

手違いから始まる恋


舞台はインド西部の大都市ムンバイ。乗客を満載した電車に始まりリキシャや車が忙しく行き交う朝の街の描写から、カメラはあるアパートのキッチンに移動、そこでは若い主婦のイラ(ニムラト・カウル)が会社員の夫の弁当作りに大わらわだ。

インドの都市にはダッバーワーラーと呼ばれる弁当配達システムがあり、各家庭や弁当業者などを回って、それぞれ所定の受取人に弁当を届け、空の弁当箱をまた回収してきてくれる。

色とりどりのランチボックスの袋が、ぎっしり積まれて運ばれていく様子が面白い。作る方は早朝に忙しい思いをする必要がなく、食べる方は荷物も増えないので、なかなか合理的な仕組みと言えよう。


弁当を運ぶダッパーワーラー(Getty Images)

しかしその日、何の手違いかイラの弁当は、夫ではなく、保険会社に勤める早期退職間近の中年男サージャン(イルファン・カーン)の元に届けられる。いつも予約した業者の弁当を食べている彼は、見慣れぬ弁当箱にいぶかりつつも、四段重ねのそれを開け、旨そうな匂いと外観に驚く。

すっかり空になって返ってきた弁当箱を見て喜ぶイラだが、夫との会話が噛み合わない。仕事人間で、家ではスマホとテレビばかり見て妻を放置している夫の愛情を何とか回復させようと、頑張って作った弁当。それがどうやら、他人の弁当と入れ替わっているらしいとイラは気づく。

何らかの手違いや誤解から恋が始まるのは、ロマンチック・コメディの定石だ。この作品もそんなロマコメっぽいユーモアをまぶしつつ、主人公は夫婦仲の冷えた人妻と妻を亡くした陰気で無愛想なおじさんだけに、少し苦みと渋さが漂っている。

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