ビジネス

2019.05.10

福岡で起業家を生み出すコミュニティは、いかにして生まれたのか?

サイノウCEO 村上純志


スタートアップカフェの始まりは、TSUTAYAの一角から

2011年の明星和楽をきっかけに、福岡市長の高島宗一郎さんと、明星和楽にもエグゼクティブ・ディレクターとして運営に携わっていただいていた孫泰蔵さんが出会いました。当時、当選したてだった高島さんも、福岡市を「スタートアップの街」にするアイデアを抱いていたところで、参加した明星和楽のイベントのエネルギーに、大きな可能性を感じてくれたみたいで。

翌年の明星和楽で、福岡市長の高島宗一郎さんが中心となり福岡からグローバルに活躍するベンチャー企業を生み出すべく「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行いました。

その後、高島さんは次々とスタートアップを支援する施策を打ち出していきました。そのなかで、起業の相談窓口を作りたいと相談を受けたのがきっかけとなったのが、スタートアップカフェでした。現在は福岡市役所(リニューアル中につき、市役所での運営は5/29まで。5/31からは「Fukuoka Growth Next」内で運営)にありますが、最初は天神にあるTSUTAYAの3階にカフェがありました。老若男女が集まり、人びとがフラットに話せる場ということで、TSUTAYAのような場所が選ばれました。



スタートアップカフェでコミュニティを形成していく上で、一番気を使ったのは常駐者。オープンな場所を作りたい反面、関係ない人が常駐してしまうと、僕たちがターゲットとしている人びとが来れなくなってしまう。ルールを設定して締め出すことはしたくなかったので、緊張感を生み出しつつ、多くの人を呼び込むことのできる常駐者を理想とし、担っていただきました。
福岡が真の「スタートアップ都市」になるために

最近では、地方でコミュニティを作りたいというさまざまな世代に相談を受けることがあります。しかし、僕は皆さんに明確に「これをやれば成功できる」と言葉を送ることはできません。僕が話せることは、「福岡のコミュニティ」で起こったことだけ。また、地域に根ざしたコミュニケーションを無視して1つのメソッドに拘泥しては、地域の信頼を得られず、本末転倒な結果に陥ってしまう。地方には地方のコミュニケーションや商習慣があり、全てに通底する「魔法」は存在しないのです。

ちなみに、福岡の特徴は、とにかく「飲み」からコミュニケーションが始まるところ。狭いコミュニティのため、街中で出会うことも多いのですが、そこから「行っちゃう?」みたいなノリで飲み会が始まります。初めて福岡に来た方とも、とにかく飲み会に行くことで親睦を深めることが多いです。

いま、福岡のスタートアップが盛り上がっているのは、行政からの「トップダウン」の施策と、市民からの盛り上げていく「ボトムアップ」が両輪となり、うまく加速していることがあげられると思います。仮に、行政だけがゴリゴリ起業を推進していても、意味がないので、市民をいかに巻き込んでいけるかは、大事なのかなと思います。

スタートアップコミュニティとして、多くの地方からアドバイスをお願いされることも多いですが、取り組みたいことはまだまだあります。1つの大きな取り組みたいことは、ハングリー精神の情操。福岡は家賃も安く、めちゃめちゃ住みやすい反面、「なんとかしなきゃ」と思える人びとがすくなく、満足してしまっている印象を受けます。東京だと、固定費が10万だったりすると、稼がなければいけないハングリー精神が必然的に芽生えたりしますからね。

「ハングリー精神」を芽生えさせるために、僕たちがいま試しているのは「快適すぎる」場所を作らないこと。「ここが通過点なんだ」と思ってもらえるよう、あえて狭く作ったり、便利すぎない空間を作ろうと思っています。水と一緒で、同じ人ばっかりだと濁っていく。通過点としてどんどん人が動いていくような場所を作っていかないといけないと思っています。

僕らの目的は福岡の起業家を増やすことだけではありません。自然に人びとが交流し、コミュニケーションをするなかで、選択肢を増やしていくこと。起業を選択肢の1つだと思ってもらえる人たちを増やすことで、結果的にマイクロソフトやアマゾン、スターバックスといった企業が生まれたシアトルのように、真の「スタートアップ都市」になれるのではないかと思います。

構成=半蔵門太郎 写真=小田駿一

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