シブヤ大学学長がラグビーのチーム運営から導いた自分のスタイル

左京泰明 シブヤ大学 学長

今年9月に日本で開催されるラグビーW杯。組織論、リーダー論として語られることの多いラグビーとビジネスの共通項とは?経営者へのインタビューとラグビーの母国である英国を訪ねてその本質を探った。

インタビューやレポートを全5回に渡ってお届けする。


「早稲田大学のラグビー部が低迷していたときの経験が、いまやっていることに非常に近いですね」

「シブヤ大学」の学長であり代表理事の左京泰明は、渋谷の町を架空のキャンパスに見立てて、2006年に同大学を開校させた。

「走らないサッカー」ことウォーキングサッカーから介護まで、生涯学習と街づくりをテーマに、これまでに300の“教室”を開き、1300人の“先生”を招き講座を実施している。

左京は総合商社を経て、NPO活動とともに特定非営利活動法人シブヤ大学を設立。早稲田大学4年時にはラグビー蹴球部でキャプテンを務めている。

早大ラグビー部の低迷中、左京は「自分たちが何を目指すのかすらわからなくなっていました」と振り返る。

彼は4年生が何を考えているのか、その思いを聞いて回るだけでなく、下級生の思いに耳を傾けることにした。下級生たちの気持ちを汲み取りながら、チームの意志を発信するようにしたという。

お互いを「リスペクト」する手法で組織の方向性を明確にし、泥沼から脱したのだ。

「ラグビーを経験した人にはよくわかると思いますが、ひとりの天才的なセンスでトライが生まれる場合もある一方、多くの場合は15人一人ひとりの役割の積み重ねによって結果がもたらされています。トライを決めた人と、自分が潰れてボールを繋いだ人、味方のためにフォローに走った人、その価値に上下はありません。お互いの役割に目を向けてリスペクトできる。それがラグビーから得たことのひとつです」

ラグビーのチーム運営は、そのまま社会での組織運営にも重なるものだった。

「たくさんのボランティアスタッフと協力しながら運営を行ってきました。ラグビー部時代と同じで、NPOとして目指すことを発信していくとともに、関わる一人ひとりの意見に常に耳を傾け、汲み取ることが自分のスタイルです」

シブヤ大学の活動を通じ、ユニークなアイデアで企画を立てて目立つ人間、裏方として運営のための細かな配慮や地道な準備をする人間、さまざまな人との関わりがある。それを同じようにリスペクトすることで、シブヤ大学をここまで続けてこられた。

そんな左京は、安易にラグビーの人脈を頼らずにやってきたと語る。

「ラグビー経験者に会うと、 “ふるさとが一緒ですね”と温かい気持ちになりますが、そこに甘えてはいけないと思いました。苦しさから逃げず、チームのために責任を果たすことへのやりがいを共有できる人たちがいて、さらに育ってくる次の世代がいる。ラグビーから多くを教わり、育ってきた自分は、ムラから出て、さすがあのムラ出身の人は違うねと思われるような結果を出していきたいですね」


左京泰明◎1979年、福岡県出身。早稲田大学卒業後、住友商事株式会社に入社。2005年に退社後、特定非営利活動法人グリーンバードを経て、2006年9月、渋谷の街を大学のキャンパスに見立てたまちづくりをコンセプトに特定非営利活動法人シブヤ大学を設立。その実績をベースに他の地域のまちづくりへのアドバイス、NPOの経営指導も手がける。

文=青山鼓 写真=Tsukuru Asada(sessesion)

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