ビジネス

2019.05.17

深センで進化する起業家コミュニティを「無給」で支える女性の情熱

Startup Grindの深センでの運営責任者を務めるGrace Zhang


世界のトップリーダーに接してきた彼女だからこそ、今後、深センがどう進化していくべきか、そのための課題などが、俯瞰的に見渡すことができるのでなないだろうか。

「深センのスタートアップは、『ソフト面の強化』をすべきときが来ていると思う。猛スピードで急成長している彼らの大半が創業から3年から5年ほど。これらかは強固なチームづくりのためのマネジメント能力も必要だし、世界への展開を成功させるためには海外メンバーとも共感できるブレない経営理念も必要」とGraceは言う。

しかし、経営者同士がそういった相談をできる機会はまだ少ない。アメリカでは新たな挑戦者が、成功者にアドバイスを求めることができるカルチャーがあり、その機会も充実している。

「世界的成功者であるスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグでさえも、好意的に後輩へアドバイスを提供してきた。そんなふうに成功者が新たな挑戦者を支援する、成功のバトンを繋ぐようなエコシステムを、ここ深センに創り上げたい」。そう迷いなく言い切る彼女を目の前にして、思わず私も目頭が熱くなった。

いまでこそ、良質な人気コミュニティーに成長したStartup Grindだが、立上げ当初の5年前は、イベントへの参加者はほぼゼロだった。深セン来たばかりのGraceに知り合いがいなかったからだ。そこで彼女は新たなアイデアを生みだした。ネイティブ並みの英語力を活かし、本場シリコンバレーの内容をこちらの提携先に提案し、資料翻訳からイベントの企画運営まで彼女が全て請け負った。

これが大好評でファンが増え、アップデートを繰り返し、Startup Grindでも着実なコミュニティーの拡大に繋がってきた。コアバリュー、情熱、そして何があっても継続するという覚悟を持っている彼女だからこそ、成し得ていることではないだろう。

彼女のコミュニティーには、前述のようにヨーロッパ、アメリカ、中東、最近ではインドネシアなどアジア圏の出身者も増えている。ただ、日本から参加者は、残念ながらほぼ見当たらない。だからといって、日本からの参加者も増えてほしいなどと、軽々しく私は言えない。



確かに深センにはスタートアップを育てる風土がある。私自身がその1人だからこそ実感していることだ。ここに飛び込んだときには人脈も何もなかった。そんな私でさえビジネスを進めることができている。

とはいえ、そんな私でも、3つだけ持っていたものがあった。それはGraceたちと同じく、コア、情熱、覚悟だ。彼女や多くの先輩たち、そしてこの環境を支えてくれている全ての人たちに敬意を持つ、本気の仲間が増えてくれれば嬉しいと個人的に思う。

連載:深センのリアルなキャリア事情
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文=藤井 薫

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